ただ悪より救いたまえ (2020):映画短評
ただ悪より救いたまえ (2020)ライター4人の平均評価: 3.8
バイオレンスとアクションに彩られた因果応報の物語
プロの暗殺者として生計を立てる元工作員インナムが、臓器売買ビジネスに巻き込まれて誘拐された幼い娘を救うためタイへ向かったところ、その彼に実の兄を殺された狂暴な殺し屋レイが追いかけてくる。繰り広げられるのは「生き延びるために人を殺してきた男」と「人を殺すことが生き甲斐になってしまった男」の凄まじい殺し合い。罪深い人生に終止符を打って引退を考えていたインナムにとって、レイは逃れようにも逃れられない過去からやって来た怪物だ。そんな彼のせめてもの罪滅ぼしが娘の救出なのだろう。壮絶なバイオレンスとアクションに彩られた宿命的な因果応報の物語は、ある意味でシェイクスピア的ですらある。
アウトローvs狂犬、情念の対決に燃える!
殺し屋同士の対決という設定だけでサスペンアクションの面白さは2割増しするものだが、そこに韓国映画らしいエモーションが絡むのがミソ。
かたや愛娘の存在を知って父性に目覚めるアウトロー、かたや復讐に憑かれた狂犬。それぞれの情に突き動かされ、ひたすらバトる彼らの攻防は痛々しいバイオレンス描写に彩られ、鮮烈度を増す。
『新しき世界』で韓国ノワールの世界を構築したファン・ジョンミンとイ・ジョンジェの再共演は、まさに息が合っている。とりわけ、復讐の理由を忘れてしまうほど殺人が大好きな狂犬を演じた、後者の怪演に目を奪われた。
行為の残虐さと、音の微かさの対比が鮮やか
中心人物2人は暗殺者と殺し屋で、どちらもとにかく大量に人を殺す。本当にその必要があるのかを検討することなく、殺す。しかも無造作に。殺し屋は途中で「なぜそこまで殺し合う?」と問われて「理由は忘れた」と答える。さらに、その殺戮は大きな音を立てない。消音装置を装着した拳銃の銃弾が身体にめり込む時のポシュッ、ポシュッという音も、大型のナイフが身体に突き刺される時のプシュッ、プシュッという音も、ごく小さな音でしかなく、その行為の残虐さと、音の微かさの対比が鮮やか。舞台は日本からタイのバンコクへと移り、湿気と暑さが増していく中、2人の殺人者の殺意だけが冷えていく。この蒸し暑さと冷気の対比も鮮烈。
同じノワールでも韓国<<<香港色濃厚
東京からバンコクに舞台を移す激アツなアクション・バトルに、人身&臓器売買組織が絡んでくるといった、“韓国版『ドラゴン×マッハ!』”。『新しき世界』以来となるファン・ジョンミンとイ・ジョンジェ共演作ということで、贔屓目に見てしまうが、笑えるぐらい対照的な暗殺者と追跡者を演じる2人を観るだけでも一見の価値アリだ。加えて、お約束のように、タイ映画界の重鎮ヴィタヤ・パンスリンガムも登場。ぶっちゃけ、大味すぎるストーリー展開のほか、いろいろ粗い部分が目立つが、ホン・ウォンチャン監督の歯止めがきかなくなった演出が持ち味になっている。そのため、同じノワールでも韓国<<<香港色が濃厚に。