アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド (2021):映画短評
アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド (2021)ライター4人の平均評価: 3.5
アルゴリズムの学習 vs 面倒臭い人間
傑作ドラマ『アンオーソドックス』のマリア・シュラーダー監督が放った「ロマンティック・コメディ2.0」的な思考実験。作風は異なるが根本にフェミニズムやパートナーシップの問題があって、保守的なシステムや慣習から人間はどう自由になれるのか、といった主題も共通するのが興味深い。
従来のラブコメはコミュニケーションや相性が生命線で『her/世界でひとつの彼女』すらその範疇にあったが、本作では片方(ダン・スティーヴンス!)がAIゆえ「サービス」という供給、もしくは依存や自己完結性に置き換わる。もはや我々にも他人事ではない幸福論として、「人間的」な最適解はどこかとグラデーションを繊細に探っているのが秀逸。
ダン・スティーヴンスのアンドロイド役が絶妙!
容姿も性格も顧客の好みに合わせてカスタマイズされた人型アンドロイド。超高性能の人工知能を備えているため日々学習してセルフアップグレードするし、身体機能も人間とソックリなのでベッドのお供もバッチリ。そのうえ、どこまでもご主人様に尽くしてくれる。そんな「理想のパートナー」と3週間を過ごすことになったバツイチのインテリ独身女性が、むしろこれまで見て見ぬふりをしてきた自らの孤独や不安と向き合うことになる。高度に発達したテクノロジーを通じて、人間という不完全な生き物の本質を考察していく大人のロマンティック・コメディ。アンドロイド役にダン・スティーヴンスという配役が絶妙で、適度なほろ苦さも心地良い。
人間心理のあれこれが奥深い
タイトルのイメージ通り、ある女性とアンドロイドの恋愛事情を描く楽しいラブコメでありつつ、実は奥深い。監督はドイツ出身の女流監督、正統派ユダヤ教徒コミュニティから脱出した女性を描くリミテッドシリーズ『アンオーソドックス』でエミー賞監督賞受賞のマリア・シュラーダーで、一筋縄ではいかない。主人公は恋愛相手を欲しているわけでなく、研究資金を手に入れるため、アンドロイドとの交際実験に参加する。しかし、自分の好みに合うようにプログラムされたアンドロイドに恋をするとしたら、その恋とは何なのか、それは受け入れることが出来るのか、彼女の意識はそんなところまで踏み込んでしまうのだ。人間心理の妙が奥深い。
楽しくて、深いことも考えさせる、傑作恋愛映画
マリア・シュラーダーによると主人公アルマは彼女自身のアルターエゴとのこと。現代の大人の女性が思いきり共感できるのも超納得。アルマが実験として3週間一緒に暮らすことになったロボットは、彼女の理想に合わせてプログラミングされたもの。そのロボット役を演じるダン・スティーブンスがなんとも絶妙。だが、笑わせるだけでなく、彼の目線から、人間とは、そして人間関係とはという問いかけがなされていくのだ。誰かと一緒に暮らしていく中では良いことばかりではない。お互い欠点もあるし、機嫌が悪くなることもある。それを乗り越えてこそカップル。さらには初恋の甘さにも触れる、楽しいだけでなく実はとても深い作品。