BELUSHI ベルーシ (2020):映画短評
BELUSHI ベルーシ (2020)ライター5人の平均評価: 3.8
破天荒でエキセントリックな表層に隠された繊細でナイーブな素顔
33歳の若さで亡くなった天才コメディアン、ジョン・ベルーシの短くも激しい生涯を、未亡人ジュディスより提供された生前の膨大な音声テープや手紙、さらには家族・友人・関係者らの証言を交えながら紐解いていくドキュメンタリー。「全力疾走しか出来ない男」と呼ばれ、常に己の限界を超えるべくもがき苦しみ続けた彼の生き様からは、破天荒でエキセントリックな表層に隠された繊細でナイーブな素顔が垣間見える。アイヴァン・ライトマンやキャリー・フィッシャー、チェヴィー・チェイスなど盟友たちの貴重なインタビューも見どころだが、中でも苦楽を共にした無二の親友ダン・エイクロイドのコメントには強く心を動かされる。
全力疾走しかできなかった男のブルース
インタビューで多くの人が口にする“エネルギーの放出量がすごい”。それがベルーシのパフォーマンスの魅力を何より物語っている。
伝記本のために撮られたインタビュー音声を生かし、写真やフッテージ、アニメでベルーシの生涯をたどる構成。お笑いや音楽、演技の才能はもちろん、活動的でリーダーシップもあり、運動神経は抜群。受け手の期待に応えるために力を出し惜しまず、そのストレスから薬物に走る、そんな人間像が見えてくる。
要所に妻への手紙が差し込まれるが、そこで吐露される葛藤や弱音はベルーシの内面の表われ。彼はブルース・ブラザースとして歌った。しかし真のブルースは、最愛の者にのみ歌われていたのだろう。
親しい人の言葉で語られる、胸に迫るドキュメンタリー
コメディアンは内に暗いものを抱えているとか、名声の悪い側面などについては昔から言われてきたが、ベルーシを個人的によく知る人たちの言葉によって語られることで、その悲しさがより胸に迫る。やはり依存症に悩んだキャリー・フィッシャーの言葉は説得力大。時折入るアニメーションも、ストーリーを語る上で効果的だ。リアルタイムで見た「ブルース・ブラザース」の制作現場での彼がどんな状態だったのかを知らされたのも衝撃だった。彼の初期の頃のコメディ、音楽のライブ映像などは楽しく、本当に惜しい人を失ったと痛感させられる。今もまだ人気を誇る「Saturday Night Live」の立ち上がりを見られるのも興味深い。
破天荒キャラに隠された裏の顔も!
『べルーシ=ブルースの消えた夜』にガッカリした人ほど涙する、ジョン・べルーシの生涯。ゴリラズのMVで知られるロバート・バレーによるアニメパートとともに描かれるのは、“ニュータイプ芸人”と自負する天才でありながら、全力疾走しかできない不器用な男の33年。ゆえに、クスリに手を出してしまったわけだが、その影響で晩年はブルースを捨て、パンクにハマっていた衝撃の事実も明らかに! ダン・エイクロイドとの相方を超えた友情はもちろん、“最初で最後の恋人”である妻ジュディスに送り続けたラブレターや、仲睦まじい2人の写真や8mmフィルムも解禁。破天荒キャラに隠されたロマンチストな一面が垣間見れる。
友人たちが語る故ジョン・ベルーシの思い出が暖かい
『ゴーストバスターズ』の続編公開に先駆けて、オリジナル作に出演するはずだった故ジョン・ベルーシのドキュメンタリーが登場。本作はいい意味で、ベルーシを愛する人たちが作ったベルーシを愛する人たちのための映画。『ブルース・ブラザース』『アニマル・ハウス』等のコメディで魅了したベルーシの素顔を、高校時代の恋人で妻となって彼を支えたジュディスが製作に参加し、彼女が提供した未公開音声や直筆の手紙を交えて描き出す。監督は『ビリー・アイリッシュ 世界は少しぼやけている』でもファンが見たいものを見せてくれたR・J・カトラー。ダン・エイクロイドら友人達が語る、全力疾走しか出来なかった男の思い出がどれも暖かい。