シラノ (2021):映画短評
シラノ (2021)ライター6人の平均評価: 4
容姿コンプレックスは、いつの時代も消し去れない!?
古典『シラノ・ド・ベルジュラック』のミュージカル翻案ということで、約30年前のジェラール・ドパルデュー主演版を思い出しつつ楽しんだ。
巨体のドパルデューとは逆に、主演のピーター・ディンクレイジは超小柄。ルックスへのコンプレックスという原作のエッセンスを真逆のキャラクターで表現しつつ、切ない恋心もそのままに、音楽的に美しく再現する。ジョー・ライト監督の野心的な演出は、それを見事に映像に刻み込んだ。
原典を知っていれば物語的にはとくに大きな驚きはない。裏を返せば、知らない方ほど、彼らが歌うナンバーか痛切に響くだろう。俳優陣の情熱的な歌のパフォーマンスともども、じっくり味わいたい。
ピーター・ディンクレイジの堂々たるバリトン・ボイスに痺れる
過去に何度も映画化されてきたエドモン・ロスタンの戯曲ではなく、その新解釈ミュージカル版をジョー・ライトが映画化した作品。やはり最大の勝因はシラノ役のピーター・ディンクレイジであろう。文武両道に長けた英雄的な人物ながら、唯一にして最大のコンプレックスである低い身長ゆえ、自らを「愛される価値のない人間」だと考えている。ティリオン・ラニスターの延長線上にあるキャラがピッタリだし、なによりメイクで大きな鼻を付けた役者が演じる従来のシラノよりも遥かに説得力がある。バリトンの歌声がまた圧倒的に素晴らしい。登場人物の誰もが「愛する人に嫌われることの恐れ」を抱えているという解釈も物語に深みを与えている。
ディンクレイジが演じることで感情レベルが高まった
駆け出しの頃「恋愛映画の主役をやりたい」と言っていたというピーター・ディンクレイジが、52歳にして夢をかなえた。脚本を書いたのは彼の妻で、舞台裏にも愛がたっぷり。過去にも映画化されてきた今作は、おそらく主人公と重なる体験をしたであろう彼が主演したことで、偽物の鼻をつけた俳優とは完全に違った感情レベルを達成した。優秀で自信たっぷりの彼が内面に隠しもつはかない部分。そこが、何よりも胸を打つ。ビジュアルは美しいが、音楽は見終わってからも耳に残るほどではない。また、スティーブ・マーティンのバージョンを期待していると「暗い」と感じるかも。それでも純愛ミュージカルを求めるならおすすめの一作。
プラス要素の集合体
歴史劇に実績たっぷりのジョー・ライトが監督。カリスマ性と演技力を併せ持ったピーター・ディンクレイジがシラノを演じ、注目の若手ヘイリー・ベネットとケルヴィン・ハリソン・Jrが共演というプラス要素を掛け合わせたようなミュージカル映画。
とにかく、ピーター・ディンクレイジの存在感が抜群です。痛快なヒーローであると同時にかなわぬ恋に心痛める悲哀も感じさせ、映画をグイグイとけん引してくれます。
「シラノ・ド・ベルジュラック」の物語をここまで新鮮なものになると恐れ入りました。
この有名な物語、意外なほどミュージカルとの相性はバッチリ
主人公の「大きすぎる鼻」というコンプレックス、つまり作品の肝を大胆に変更し、恋の相手の言動は自律的。しかし全体のムードは、あくまでクラシカルに徹する。「原点」の良さと「アップデート」がうまくミックスされた印象。だからこそ涙を振り絞るラストまで素直に引き込まれる。
ミュージカルとしては、1曲目から歌とダンスがすんなり作品に溶け込んでいき、メイン3人の思いが強烈に交錯するナンバーなど、意外なほど同時期公開の『ウエスト・サイド・ストーリー』と重なる部分も多い。つまりジャンルの王道的な巧さ。シェルカウイ振付によるパン屋や剣闘士のダンスは斬新だし、ジョー・ライト監督らしく光の柔らかな美しさも感動に貢献。
ワーキング・タイトルらしい意欲作
撮る作品の振り幅の大きさに対し、ある程度のクオリティは保証するジョー・ライト監督作。美女ロクサーヌを『Swallow/スワロウ』のヘイリー・ベネットが演じるなか、シラノをリブート版『悪魔の毒々モンスター』の主演も控える怪優ピーター・ディンクレイジが演じるという面白さ。2人が共演したミュージカルが基盤になっているが、シラノが従来通り、剣の達人という設定は、やはり無理がある。そのうえ、三角関係となるクリスチャンのキャラの弱さが巧く物語を牽引せず、後半にかけてはミュージカルとしての魅力も薄まってしまうことに。オスカー候補に挙った衣装デザインなどの裏方仕事は抜かりないだけに惜しい。