帰らない日曜日 (2021):映画短評
帰らない日曜日 (2021)ライター4人の平均評価: 3.8
大女優グレンダ・ジャクソンのスクリーン復帰作!
1924年のイギリスを舞台に、名門貴族の御曹司と恋に落ちたメイドの、人生を一変させた1日とその後の歩み。注目すべきは、第一次世界大戦の直後に時代を設定している点であろう。大勢の若い男性が戦場に散ったことでイギリスの伝統的な階級社会が大きく揺らぎ、この数年後にはすべての女性に参政権が与えられることとなる。そんな激動する社会を背景に、学歴も教養も家柄も持たない若い女性が自我と知性に目覚め、やがて自立への道を歩み始める。いわばフェミニズムの発芽を描いた作品と言えよう。2度のアカデミー主演女優賞に輝く大女優グレンダ・ジャクソンの、実に31年ぶりとなるスクリーン復帰作としても見逃せない。
官能的でメランコリック
官能的で、メランコリックなラブロマンス。光を注ぎ込んだ柔らかなビジュアルで綴っていくこの映画は、印象派のアートを見ているような気分にさせる。主人公ジェーンの人生を変えたある1日が焦点となるものの、全体のベースには、第一次大戦がイギリスにもたらした大きな悲しみがある。時間が行き来するのもまた印象派的なムードに貢献しているが、前後して忙しいわりにはストーリーのテンポが遅いことにややフラストレーションも。ジェーン役のオデッサ・ヤングの純真な魅力と大胆(ヌードのシーンがたっぷり)かつ繊細な演技が今作の最大の魅力。一方でオリヴィア・コールマンにほとんど見せ場がないのは残念。
上質のラブロマンスに込められた時代の「終わり」と「始まり」
『ダウントン・アビー』とも重なる時代背景だが、こちらは労働党のマクドナルド政権が誕生したばかりの、1924年3月のたった一日が物語の主軸。戦争の影を受けた上流階級の憂鬱と絶望を象徴するポールと、のちに作家となるメイドのジェーン――旧時代と新時代の運命が交差する。「裸」と「着衣」の対比など、端正なメロドラマの中に政治的・社会的な奥行きが丁寧に編み込まれている。
原作小説には基本忠実ながら、1948年パートにおける哲学者の恋人の人種変更、ヴァージニア・ウルフの付与など、『バハールの涙』のエヴァ・ユッソン監督&『レディ・マクベス』の脚本家アリス・バーチによる批評的なアレンジも全て素晴らしい!
細やかな光と影と官能が重なり合う
1924年、3月の英国。緑に囲まれた邸宅。降り注ぐ光はきらめくが、強くはなく柔らかい。その光が植物にも人々にも降り注ぎ、どこまでも細やかな陰影を生み出す。画面は、それを余すところなく映し出す。
映画は、書くということについての物語でもあり、異邦人には真髄までは読み取り難い英国の階級意識をめぐる物語でもあるが、主人公が感受する官能の物語にもなっていて、そのどれもが同質の繊細さを持ち、それぞれが波が重なるように影響し合う。自転車に乗る主人公が、髪を風が通っていく時に感じ取る身体的快感と、そのときに湧き上がる開放感が、互いを増幅させる場面が何度も繰り返され、その快感が画面から伝わってくる。