シング・ア・ソング!~笑顔を咲かす歌声~ (2019):映画短評
シング・ア・ソング!~笑顔を咲かす歌声~ (2019)ライター6人の平均評価: 3.3
笑いと涙の絶妙なサジ加減が『フル・モンティ』の監督らしい
舞台は英国軍兵士の家族が暮らす郊外の駐屯地。戦場へ送り出した夫の帰りを待つ妻たちが合唱団を結成したところ、全国にテレビ中継される戦没者追悼イベントの晴れ舞台に招かれる。別に合唱が好きなわけじゃない。ただ、何かに打ち込んで不安や心配を紛らわせたいだけ。熱心な人もいればやる気のない人もいるし、音痴もいればあがり症もいる。共通するのは、愛する人が無事に戻ることを願う気持ちだけ。そんな女性たちが時に衝突しながらも、歌を通して心をひとつにしていく。笑いあり涙ありの爽やかな語り口は、さすが『フル・モンティ』のピーター・カッタネオ監督ならでは。こういう映画は予定調和も魅力のうちである。
実話に基づく、“ご婦人版『ピッチ・パーフェクト』”
空回り気味なリーダーを筆頭に、個性的すぎる面々が合唱団を結成し、ポップスをカヴァーする展開は、まさに“ご婦人版『ピッチ・パーフェクト』”。そんなキャッチーさに、彼女たち「軍人の妻たち(原題)」は、死と隣り合わせの日々を生きている、というシリアスな背景を融合。終盤にロイヤル・アルバート・ホールで歌う泣かせ楽曲が映画オリジナルだったり、あくまでも“実話に基づいた話”だが、その絶妙なバランスにピーター・カッタネオ監督ならでは職人技が光る。カヴァー曲はあざとさも感じさせるが、トンネルで雨宿りしながら、今やヤズーより『天使の涙』の印象が強い「オンリー・ユー」を歌うシーンが印象的。
軍人の妻でも特別視しない、人間ドラマの旨み
軍人の妻の特異性にドラマを見出す――愛する者の死の不安は、これまで多くの映画で描かれてきたが、ベタなメロドラマに走らないのがいい。
それを可能にしたのは、家族と生きる普通の人妻の部分に重きを置いた作り手の視点。子どもの世話に追われるだけでなく、ママ友同士の関係には性格の不一致もあれば、気楽にエロ話をかわせる間柄もある。そんな一般性と、特異性の微妙なバランスが取れているから、本作は素直に夢中になれるのだろう。
彼女たちのストレスのはけ口は言うまでもなく歌だが、そのカタルシスが名曲とともに観る者の心にもしっかり浸透する。庶民派カッタネオ監督のイイ仕事。
映画は「生きもの」だと実感。日常が変われば感動も変わる
この作品、コロナ禍に入る前のトロント映画祭で観た時はウェルメイドな印象だった。『フル・モンティ』のカッタネオ監督らしさが発揮され、さまざまな悩みを抱える個性的メンバーが一致団結するドラマに、キャストもうまく揃え、最後を盛り上げる。ただ感動は想定内。
しかし今、改めて観ると、大勢で集まって歌うことが難しかったコロナの日常が重なるし、愛する人を戦地へ送り出す辛さもリアリティを伴って伝わった。映画と現実のリンクが、作り手も予期しなかった感動をもたらすことに。
歌える歓びということでは、あの『天使の涙』で「パラララ」というアカペラが耳に残った『オンリー・ユー』が使われるシーンは優しい幸福感に包まれる。
性格の違う2人がぶつかりあって笑って泣かせる
実話に基づいて描かれる、軍人の妻たちがコーラスグループを結成して支え合う感動的な話なのだが、それが、性格も世代も違う2人が、ぶつかり合いながらお互いを認め合うようになっていく話にもなっていて、笑わせたり、泣かせたりする。その2人を演じる『窓際のスパイ』のクリスティン・スコット・トーマスと『ゲーム・ナイト』のシャロン・ホーガンの芸達者ぶりを堪能。
監督は『フル・モンティ』のピーター・カッタネオ。チラっとしか出てこないサブキャラが妙にイイ味だったり、ギャグのセンスがタフな手触りだったりするところが『フル・モンティ』を思い出させ、見ていて気持ちがいいのもあの映画に似ている。
戦争の裏にいる女性たちに焦点を当てた素直に良い映画
良いストーリーを、余計な野心を持たずに素直に語る、心温まる映画。すごく新しいわけではなく、展開はだいたい想像がつくものの、女優たちが優秀で、彼女らの関係に信憑性があるために、思い入れできる。普通の人たちを優しい視点からユーモアを持って描くのは、さすが「フル・モンティ」のピーター・カッタネオ。一方で、危険な戦地へ夫を送り出す妻たちの辛さ、不安さ、悲しみも、まっすぐに見つめる。戦争の裏にいる、普段スポットライトの当たらない女性たちに焦点を当てたことも評価したい。エンドクレジットに登場する、この映画にインスピレーションを与えた実在の合唱団の女性たちに拍手。