MEN 同じ顔の男たち (2022):映画短評
MEN 同じ顔の男たち (2022)ライター6人の平均評価: 4.2
同じに見える男たちの顔は有害な男らしさの象徴
夫からDVを受けて別れを決意した女性。その直後、まるで彼女を罰するかの如く夫が目の前で自殺を遂げ、心に深いトラウマを抱えた女性は、風光明媚な田舎で休暇を過ごすものの、そこで不可解な怪現象を体験する。A24製作のシュールなアート系サイコ・ホラー。ストーリーは難解なように思えるが、しかしみんな同じ顔に見える田舎の男性たちが、いわば男性に共通する加害性の象徴と考えれば、おのずと見えてくるものがあるだろう。その男性たちが、女性が潜在的に抱える男性への警戒心や恐怖心を一様に過小評価するのも特徴的。フェミニズム視点のホラー映画として、韓流映画『死を告げる女』と併せて見たい。
同じものが別のものに見えてくる
現在の街で暮らすどこにでもいそうな女性の経験から始まる物語が、太古から続く物語に変貌していく。教会にある中世の産物である奇妙な形をした石の彫り物が何度も登場し、光線によって表面を覆う影の形を変え、まるで違うものに見えていく。同じものが、状況が変わると別ものになる。
タイトルになっている、同じ俳優が演じる同じ顔をした男たちは、男性であるアレックス・ガーランド監督の考える"男性的なるもの"のさまざまな嫌な側面をデフォルメして描いたものにも見え、おぞましく忌まわしい。その一方で、映画には太古の物語を連想させる光景もあり、本来あったもの、後にそうなったものについても思いを巡らせたくなる。
計算し尽くされた恐怖
いかにもA24作品らしい田舎ホラーであり、おなじみの不穏な空気感に加え、アレックス・ガーランド監督作らしいメリハリついた恐怖演出が相乗効果となっていく。また、『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』も手掛けたロブ・ハーディによる息を呑むような撮影の美しさも見どころだが、これもいきなり挿入されるグロシーンとの対比が際立つことに。副題でもある“同じ顔をした男”については、パッと見分かりやすいものではないところがポイントで、ヒロインが“男の顔の区別がついていない”とも捉えられる。それによってフェミニズムに通じる解釈が変わってくるので、いろいろ計算し尽くされた一作といえるだろう。
性差の悪夢を語る不条理このうえないスリラー
謎めいたタイトルに誘われ、物語に入ってみたら、そのいびつな世界の前では謎の解決はどうでもよくなる、そんな不条理スリラー。
ニヤケ顔だったり仏頂面だったりの“同じ顔の男たち”や、遠くにポツンと見える人影の不気味さ。男たちの言葉尻ににじんだ悪意によって高まる不穏。かと思うと、田園地帯のハッとするほど美しい映像が展開したり。いずれにしても、ざわつきは止まらない。
ガーランド監督は、“まず感じて欲しい。考えるのは見た後で”と語っているが、フェミニズムに通じるテーマは多様な解釈ができそう。とりわけ、仰天のクライマックスが意味するところは語り甲斐があるだろう。
アレックス・ガーランドの監督作でも最高レベルか
インパクト絶大の見せ場や、A24ホラーらしいシュールな不条理コント性などパワータイプの凄みも充分ながら、作品設計は細やか。ロリー・キニアが一人多役で戦慄の笑いを創出し、酷いトラウマを抱えて田舎に移住してきた女性を襲う。J・ピールとも通じる悪夢感覚だが、「男は皆同じ顔をしている」という恐怖は明快な男性原理風刺だ。
タルコフスキーっぽいイメージもある廃トンネルでの残響など音設計も見事。泣けたのは冒頭に伝説のSSW、レスリー・ダンカンの名曲「LOVE SONG」(愛の歌)が使われ、締めに『エルトン・ジョン3』収録のVer.が流れること。孤独な女性の心象を見つめた映画として優しく切ない響きを伝える。
現代的テーマを、空前絶後のおぞましい映像で…
タイトルどおりの「現象」に主人公が襲われるので、ある程度の心構えで作品に向き合ったところ、微妙に“同じじゃない”感じが妙に恐ろしく、それ以上に男たちの言動の常軌を逸するレベルが激しかったりして、心が落ち着かない状態がずっとキープされる。「じわじわ来る」感じと「ドッキリ」のバランスも、じつに映画っぽい。作り手の意図がきっちり作品の特徴になった好例。
人によっては拒絶反応も起こるであろう衝撃シーンには、ジェンダー問題への鋭い批判精神が込められつつ、それを本能的に伝える巧妙さに感心しきり。
主人公とともにイギリス郊外の豪邸の優雅さ、どこか異世界に繋がっていそうな非日常感も少しだけ味わえ、そこも魅力。