ドリーム・ホース (2020):映画短評
ドリーム・ホース (2020)ライター4人の平均評価: 3.8
寂れた田舎に希望を与える奇跡のような村おこし物語
高齢化と過疎化で衰退したイギリスの小さな村。地元のパブへ行っても人はまばらだし、集まるのはオジサンとオバサンばかり。平凡で退屈な日常に刺激が欲しい!若い頃のようなワクワク感を味わいたい!そう考えた主婦が一念発起し、夫や村の仲間を巻き込んで競走馬を育てることになる。いやあ、実に胸のすくようなお話ですな。ある意味、絵に描いたようなサクセスストーリーなのだが、それだけにこれが実話だと知って少なからず驚く。住民たちが同じ夢と目標を共有することで、元気を失った田舎に活力が戻ってくる。これぞ理想の村おこし。金儲けが目的じゃないというところもいい。日本でも地域活性化のヒントになるかもしれない。
競走馬に懸ける“夢グループ”
潜水艦映画並みにハズレなしの競馬映画だが、実話ベースの本作は平凡な主婦がやっぱ巧いトニ・コレットが競走馬育成のため一念発起。村で募った共同馬主は、サッカーのサポーターやアイドルの推し活ばりに採算度外視なので、清々しく、王道なのに前のめりになるほど! また、初戦後の移動バスで「A Design for Life」を合唱し、終盤直前に「This Is the Day」を流すあたり、“ウェールズの星”マニックス愛に溢れる。「GOT」で“冥夜の守人”の老害だったオーウェン・ティール演じるダメ夫っぷりも最高で、トム・ジョーンズ「Delilah」を“ご本人と一緒”するエンドロールに、★おまけ。
私の夢が、俺たちの夢が、走ります!
“競馬”を映画の題材にするのは難しく、カメラ位置次第では、競走馬は作り手が期待する“演技”をしてくれないこともあるという。そういう意味では、本作はじつによくできている。
迫力あふれる障害レースの模様を臨場感豊かにとらえている点が、まずイイ。『シービスケット』を思わせるアップや俯瞰など、競馬中継では見ることのできない角度からの映像に目を見張った。
何より、市井の人々の“夢”を気持ちよく描き切った点に好感。実話にドラマ性を見出し、痛快な着地点へと突き進む、そんな展開に引き込まれる。T・コレットをはじめとする“庶民顔”の俳優たちの、味のあるキャラも生きた。
競馬レースの興奮と緊迫が気持ちいい
英国ウェールズの小さな町に住む裕福ではない人々が共同で馬主になった馬が、貴族が育てた馬たちが出場するレースで、思わぬ活躍をする痛快さ。この気持ち良さは、新しい年の初めに見る映画にピッタリ。
レース場面で、興奮だけでなく強度の緊張が味わえるのは、『へレディタリー/継承』の芸達者トニ・コレットが演じる共同馬主の発起人であるヒロインが、自分の馬を愛しているから。彼女が抱く勝って欲しいという願いと、ケガをしないで欲しいという思いが絡み合い、それが見ているこちらに伝染し、レースを見ながら手に汗握らずにはいられない。並行して描かれる、彼女と父親の少々難しい関係が変化していくさまも胸を打つ。