キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン (2023):映画短評
キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン (2023)ライター5人の平均評価: 4.4
黒歴史をモラルが曖昧な白人の男たちの視点で語る
あまり語られてこなかったアメリカの黒い歴史に誠意を持って向き合う野心作。スコセッシが複雑なこの話の中心に据えたのは、デ・ニーロとディカプリオが演じる悪い男たち。モラルが曖昧なキャラクターは最も美味しいものだが、このふたりはここでもさすが。とくに愛と搾取、罪悪感がごっちゃになるディカプリオは見応えあり。しかしそこに視点を置いたため、白人の男たちの話になってしまった。予想しなかったラストもまたそれを強調することに。次はオーセージの人たちが語るバージョンを見てみたいもの。J・プレモンスによるFBI捜査官の登場でギアがシフトし、緊張感が高まるので、そこをもう少し早めに持ってきて欲しかったかも。
スコセッシ流ギャング映画の流れを汲む重厚作
名士ヅラして搾取する人々の蛮行という構図は、ある意味スコセッシらしいギャング映画。この骨格に、ファンとしてはグッとくる。
野心的に上へ上り詰め、失墜し、すべてを失う者のドラマは力強く、歯応え十分。ネアンデルタール風にやたらとアゴを突き出し、思案や苦悩を表現するディカプリオの熱演も光るが、やはり黒幕的なデ・ニーロの重厚さに目が行ってしまう。
『グッドフェローズ』や『ギャング・オブ・ニューヨーク』の構成も連想させるが、そこに先住民への反人種差別的なメッセージも込められ、さらにはアメリカの罪をも重ねてくる。そんなスコセッシの円熟にシビレた。
まだまだスコセッシ、久しぶり恐いデ・ニーロ
レオナルド・ディカプリオとロバート・デ・ニーロという歴代主演俳優を迎えたマーティン・スコセッシ監督の最新作は実話ベースの大長編。206分という長尺作品ですが、前半部のテンポが非常によく一気に没入させて、そのままエンディングを迎えます。
アメリカの黒歴史の一ページを映像化するということで、非常に丁寧なリサーチが行われたことが伺い知れます。当時の街並みも完全再現。手間暇を恐ろしく費やしていることが伝わってきます。ちょっと見る覚悟がいる一本ですが、見応え抜群、賞レースの中心作品となるでしょう。個人的には久しぶりに怖いデ・ニーロが見られて良かったです。
一緒に激しい雨の音を聞く
夜、豪雨になり、白人の男性が雨が室内に入ってこないよう窓を閉めようとすると、先住民の女性はそれを制止し、豪雨の時は、その音に耳を澄ますべきだと言う。そして2人が雨音を聞いている間、観客も一緒にその音に聞き入ることになる。映画はそのように創られているので、長いと感じることなく、豊かな時間が味わえる。
映像はきっちり写実的でありつつ、抒情的。撮影は『アイリッシュマン』に続きロドリゴ・プリエト。野生の草花が生い茂る、なだらかに続く丘。大火災の中を動く人間たちのシルエットは、人間ではないものの舞踏のようにも見える。人々の日常的な作業を映し出す映像にも、詩情が漂っている。
あの時代の人間の“感覚”も再現。映像と音楽の異様な一体感
信じた相手に言葉巧みにそそのかされ、洗脳のように思い込んでしまえば、道徳や正義など忘れてしまう人間の恐ろしさ。それを大袈裟な演技に陥らず、あまりに自然に見せ切ったディカプリオに改めて敬意を示したい。
突発的な衝撃シーン、見るも酷い残虐描写が盛り込まれるも、この時代、この場所では起きるものだと納得させる。これこそが映画の力か。長尺の「大河」に観る者を誘いつつ、終盤の意外な演出など「守り」に入る気のない監督のスタンスに感服。
スコセッシとは深い縁のあるザ・バンドのロビー・ロバートソンの音楽が多用されるが、映像および展開との一体感は異様レベル。公開前に亡くなった彼への、巨匠の愛が宿ったかのよう。