ルックバック (2024):映画短評
ルックバック (2024)ライター3人の平均評価: 4.3
死と和解できるのは創造の中だけだ
才能、嫉妬、努力、焦燥、友情、歓喜、喪失、絶望、執念とかがないまぜになって、美しい四季の風景とともに、突風のように吹き抜けていく58分。原作マンガは静謐さが印象的だったが、アニメになったことで藤野と京本の体温や息遣いが伝わってくる。京本の告白を聞いた藤野が、雨に打たれながらダイナミックに走る場面が素晴らしい。クリエイションに関わる人に限らずとも、こういう瞬間を経験したことがある人は、どんなに苦しくて辛くても、何かに打ち込み続けることができるのだろう。原作者の藤本タツキは「死と和解できるのは創造の中だけだ」という言葉を大切にしているという。何があっても描き続ける藤野の後ろ姿が尊い。
『ソウルメイト』にも通じる胸に迫るシスターフッド感
押山清高監督以下、スタッフ陣のとてつもない原作リスペクトを感じる。それによって、2人の少女を繋ぐ学級新聞の4コマ漫画がアニメとして動く。漫画制作に没頭する彼女たちの躍動感と四季折々が鮮やかに彩られる。河合優実と吉田美月喜も本人の顔が浮かばないほど、完全に役柄と同化しており、いい仕事っぷりだ。そして、『ソウルメイト』にも通じる2人の距離感や肌触りが絶妙であり、シスターフッドの映画としても胸に迫る。とにかく藤本タツキの「ルックバック」の魅力すべてが凝縮された58分。間違いなく2024年を代表するアニメ映画だけに、入場料の件など、細かいことは気にせず、劇場で体感すべし!
原作漫画を読んだ時の驚きと感動が甦る
藤本タツキの読み切り漫画を、できうる限りそのままアニメ化する。かつ、この作品の魅力を伝えるためにアニメにできることは何でもする。決して不必要なものを加えることはしない。そういうアニメ制作陣のまっすぐな姿勢が、2人の少女の心情をストレートに描いた原作の映像化に相応しい。この原作が、"描くこと"についての物語でもあることも再認識させる。
少女が田舎道をスキップする。彼女たちの背後で空の色が変わる。窓の外で四季が移り変わる。幾つもの映像が強く印象に残る。見ていると、同じ漫画家の「ファイアパンチ」「チェンソーマン」を読んできてこの原作に出会った時の、驚きと感動が甦る。