ミッキー17 (2025):映画短評
ミッキー17 (2025)
ライター5人の平均評価: 3.4
ロバート・パティンソンを再発見
複製されて2人になったミッキーが、ただ並んで立っているだけのシーンで、それぞれが別の人格を持っているように見える。どちらも同じ俳優が演じ、同じ顔と身体、同じ衣装なのにも関わらず、微妙な姿勢の違い、ちょっとした頭部の傾け方で、別の人物を生み出すのは、この2人を演じるロバート・パティンソンの演技のなせる技。この俳優には珍しいコミカルな役柄も似合っている。彼と接触する、異星に生息する生物の宮崎アニメを連想させる愛らしい姿も魅力的。
それにつけても出演者が豪華。マーク・ラファロ、トニ・コレット、スティーヴン・ユアン、ナオミ・アッキーらが集結したのは、ポン・ジュノ監督のパワーゆえだろう。
ポン・ジュノ、久々&待望のSF快作!
本格派のSFという点では『スノーピアサー』に続くポン・ジュノ作品。今回も格差システム社会を背景に置いて、らしさを発揮しているが、宇宙を舞台にした未来的テクノロジーの物語ゆえに、より自由な発想が映える。
主人公ミッキー17の性格を原作よりも純朴にした効果により、感情移入しやすいキャラに。システムに翻弄される男の物語という点では『未来世紀ブラジル』を連想させるが、ユーモアはシニカルというより陽性で、毒気よりも前向きさが先に立つ。
世界観を徹底して作りこみ、『デューン』風の一大スペクタクルまで一気に見せる快作。個人的には『パラサイト~』よりも、見直す頻度が高そうな気がする。
もはや、オクジャじゃなくて王蟲!
冒頭から『吠える犬は噛まない』にしか見えないロバート・パティンソンのフード・コーデに、『パラサイト 半地下の家族』のセルフパロディにニヤリ。とはいえ、全体的には『スノーピアサー』×『オクジャ/okja』な外面ポン・ジュノ映画の集大成。ティルダ姐さん不在の中、マーク・ラファロ&トニ・コレットにトランプ夫妻を意識した怪演をさせるなど、社会派エンタメを突っ走り、終盤には明らかに『風の谷のナウシカ』の王蟲を登場させるなど、アニオタとしての夢も実現させている。ただ、如何せんストーリーの運び方に無理が生じ、やたらテンポが悪く、ダメ男の一発逆転劇としてのカタルシスにも欠ける。
視覚的な面白さを追求し、意外にポン・ジュノ原点回帰を実感
映像とネタの面白さを求める人には、うってつけの一作。クリーチャーの造形は経験したことのない感覚に身悶えした。権力vs.下層の民という構図にポン・ジュノらしさを見出しつつ、権力側の名優にあのような演技をさせてることを考えれば、『スノーピアサー』のような深刻さは皆無に近い。もう一人の自分との関係に、共感&スリルの核心が。
複雑な設定とはいえ、前半ややセリフでの説明が多すぎるのが気になる。そして展開がけっこう行き当たりバッタリな印象で、それでも強いメッセージを予想しながら観ると後半はビジュアルの怒涛感が優先に。でもそこはポン・ジュノ初長編の快作『ほえる犬は噛まない』と重なり、無邪気に楽しめたりも!?
間違いなくポン・ジュノ作品
『パラサイト-半地下の家族-』から実に6年ぶりの新作となったポン・ジュノ。英語圏映画としては三作目ですね。ブロックバスターSF大作に見えますが、映画はポン・ジュノらしいブラックなヒューマンドラマになっていました。英語圏作品の『スノーピアサー』と『オクジャ/okja』と並べて見るとさらにこの映画の立ち位置を感じることができます。タイトルロールを演じたロバート・パティンソンはすこしだけ違う同一人物を巧く演じ分けました。指導者カップルを演じたマーク・ラファロとトニ・コレットがまた良かったです。色々身構えず気軽に見るのが良いと思います。