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サンダーロード (2018):映画短評

サンダーロード (2018)

2020年6月19日公開 92分

サンダーロード

ライター6人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 3.7

猿渡 由紀

オリジナリティあふれる、見逃したくないお宝映画

猿渡 由紀 評価: ★★★★★ ★★★★★

人生、こんなはずじゃなかったのに、どうしてこうなったのか。そんな絶望感を、男のプライドをかなぐり捨てて演じるジム・カミングスがとにかくあっぱれ。とりわけオープニングシーンは一生忘れられないほどのインパクトがある。母の死、離婚、子育ての苦労という、多くの人が経験する困難を、真剣にとらえつつも、ユーモアをもたせているのがなんとも見事。どん底に落ちた時、救ってくれるのは友情なのだということをさりげなく教えてくれるのも素敵だ。オリジナリティと人間味にあふれる、見逃したくないお宝映画。監督、脚本、作曲までこなしたカミングスの将来に、大いに期待。

この短評にはネタバレを含んでいます
山縣みどり

不器用な人間は、生きるのすら大変だ

山縣みどり 評価: ★★★★★ ★★★★★

母親の葬儀でダンスを捧げる主人公ジムの不穏な言動を追う冒頭の長回しに居心地の悪さを感じる一方、主演も務めたJ・カミングス監督の狙いが気になって仕方なし。理想とする男になりたいと頑張るあまりのジムの空回りが痛々しいが、娘とのやりとりなどにペーソスあふれるユーモアもあって、同情すべきか笑うべきか戸惑った。が、娘のために手遊びの特訓をする父親というだけで、個人的には花丸だ! この1カットを入れただけでも監督を高く評価したい。人生に迷った人間がなんとか軌道修正しようとあえぐ姿に共感するのは、自分自身が不器用なせいもあるが、「生きるって本当に大変だよね」と主人公に話しかけたい気分になった。

この短評にはネタバレを含んでいます
なかざわひでゆき

可笑しくも哀しき神経衰弱ギリギリの男

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 とことん真面目で不器用で家族想いの努力家、しかしそれゆえに世渡りが下手で面白みがなくて目立たない警察官が、心の拠り所だった妻に棄てられ娘の親権も取られそうになり、仕事でもトラブル続きで上司から大目玉を食らい、遂には最愛の母親を亡くしてしまったことから、ストレスの限界に達して壊れていく。といっても、『フォーリング・ダウン』のマイケル・ダグラスみたいに暴走するわけじゃない。どこにでもいる平凡で善良な男が、何をやっても上手くいかない状況に追い詰められ、もがき苦しみながらも人生に光を見出そうとする姿を、ちょっとばかり不条理なユーモアとペーソスを交えて描く。そのさりげない優しさが心に滲みる映画だ。

この短評にはネタバレを含んでいます
相馬 学

アタマの中で、雷鳴が鳴り響く!?

相馬 学 評価: ★★★★★ ★★★★★

 スプリングスティーンの有名なナンバーからタイトルがとられているが、その曲はかからない。しかし知っていれば、脳内で聴こえてきそう……というのがミソ。

 母の死を皮切りに、別れた妻との親権争い、解雇、その他諸々と、主人公がたどるのは、まさに雷鳴が響きまくるような波乱の道。歌詞を把握している方ならば、彼の母、前妻、娘の誰のことを歌っているのか?と思索することができる。

 もちろん歌を知らなくても、作品単体で十分に面白い。癇癪を持つ以外に欠点がないイイヤツ、しかしそれが致命的な弱点となる、そんな主人公像がおかしくも切ない。シニカル・コメディの快作。監督兼主演のJ・カミングスの名は覚えておくべし。

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平沢 薫

欠点だらけの主人公がやがて愛おしくなる

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 主人公の魅力で観客を引っ張っていくタイプの物語を、監督・脚本・主演・編集・音楽の5役兼任で作り上げたユニーク作。特に主人公のキャラクター設定が見もの。不器用なだけのいい人ではなく、短気で短慮で数々の問題を抱えているのに、なぜか憎めないところがあるという、複雑な人物像なのだ。
 そんな人物を、彼と取り巻く人々との小さなエピソードを重ねて描く脚本が巧い。もうさほど若くもなく同じような失敗を繰り返してきた主人公が、身近な人物によって新たな視点に気づかされるという逸話も胸を打つ。主人公の幼い娘の父への気持ちが、母の真似から次第に微妙に変化していくさまが丁寧に描かれて、映画に温もりを添えている。

この短評にはネタバレを含んでいます
くれい響

スプリングスティーン映画「B面」

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

基になった「短編」同様、冒頭12分、ワンカットで捉えた主人公の独白が最後の最後までジワる。普通のコメディなら、その“失態”がYouTubeにアップされ、さぁ大変!な展開になるのだが、決してそうならないのが、本作の持ち味。いわば見せず、語らずの面白さの中、不器用すぎる主人公をどんどん突き落とし、いろいろブッ壊し、その滑稽さがズブズブ胸に突き刺さる。奇しくも、同時期公開の『カセットテープ・ダイアリーズ』と同じ、ブルース・スプリングスティーン映画だが、肝心の楽曲が流れない(!)こちらは、明らかに「B面」。主演・監督から、劇伴のウクレレまで弾いてるジム・カミングスには今後、期待しかない!

この短評にはネタバレを含んでいます
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