AVA/エヴァ (2020):映画短評
AVA/エヴァ (2020)ライター6人の平均評価: 3
2大ベテラン女優の存在感が光るソープオペラ版『ニキータ』
仕事に疑問を持ち始めた元ジャンキー&アル中の凄腕女殺し屋が、8年ぶりに故郷へ戻って疎遠だった家族との関係を修復しようとするものの、そんな彼女の心の揺らぎを危ぶんだ組織によって命を狙われる。言うなればソープオペラ版『ニキータ』。ハードな肉弾アクションに挑んだジェシカ・チャステインは健闘しているものの、しかしストーリーにもスタント演出にもあまり新鮮味はない。その一方で、皮肉屋で毒舌な母親役のジーナ・デイヴィスと、地元の違法クラブを牛耳る元締め役のジョアン・チェンが、どちらも貫録たっぷりのいい芝居を見せてくれる。プロデュースを兼ねるジェシカが、大先輩である両ベテラン女優に花を持たせたような印象だ。
ジョン・ウィックになれなかった女殺し屋
謎の組織に属する女殺し屋の戦いというわけで『ジョン・ウィック』的な作品と思いきや、家族ドラマが盛り込まれていたのでイマイチ乗れず。主人公エヴァを演技派女優J・チャステインが演じる以上、単なるドンパチ映画にしたくなかった監督の意地? 美貌を生かしたハニートラップもやれば、ガンフーもどきの格闘にも挑戦したジェシカはかなり頑張っているが、アクションよりも会話劇でキャラクターの感情を表現する方がやはりお得意。この手の映画にウェットな人間ドラマは不要としか思えず。エヴァの母親をG・デイヴィスが演じていたので「もしや?」と思ったが、映画ファン向けのひねりもなくて残念。
ドラマ重視の異色・女性アサシン・ストーリー
女性暗殺者の活躍を描いたアクションは少なくないが、本作は異質。というのも、ヒロインは殺し屋としてのプロ意識に少々欠けているのだ。
標的を前にして、どんな悪いことをしたのか、なぜ殺されなければならないのかを問う主人公。殺し屋ならさっさと片付けるのが流儀だが、彼女にはそれができない。背景には過去の心の傷や家族の葛藤があり、それが彼女に危機をもたらし、また映画そのものに人間味をもたらす。
ドラマに偏りすぎてアクション映画に必要なリズムが停滞するのは勿体ない。が、ジェシカの立ち回りには見惚れるし、豪華キャストもそれぞれ顔見せに終わらない濃さがある。
ツボは抑えているがその分、既視感が
真っ赤なセクシードレスを着た美しい女性が突然にして大勢の男をやっつけてみせたり、ヨーロッパや中東など国際的な舞台で展開したり、アクションシーンをわざと手振れするカメラでとらえたりと、近年ヒットしたこの手の映画のツボは抑えている。その分、あちこちで既視感が。それでも引っ張るのは、さすがのジェシカ・チャステインの迫真の演技のおかげ。せっかく彼女がやるのだからエヴァの内面のドラマもたっぷり入れようとしたのだろうが、親の問題、依存症との闘い、元彼との複雑な関係、自分の仕事に対する疑問など、短い上映時間の間にちょっと欲張りすぎて、逆に浅い感じになってしまった。
いちいちメンブレする女暗殺者
ジェシカ・チャステインの母親にジーナ・デイビスを据えるなど、いい役者を揃えながら、軸となるのは女暗殺者を巡る“2つの家族の話”という、思いのほか、地味な展開に驚かされる。「午後ロー」なアクションとは縁遠い『ヘルプ~心がつなぐストーリー~』のテイト・テイラー監督作だからしょうがないかもしれないが、元アル中や元カレとの関係性など、暗殺者らしからぬメンブレ具合は、斬新とはいえ、如何ともし難い。リュック・ベッソンの『ANNA/アナ』や『レッド・スパロー』などと比べてしまうと、いろいろとモノ足りなく、結局いちばん高まるのが、yU+coが手掛けるオープニングタイトルという、謎な仕上がり。
展開速度と情報密度が快感!
オープニングのタイトルバックだけで、主人公の全てを見せる。その進展速度と情報密度が快感。この編集のタイトさはそのまま全編で持続され、必要最小限の映像で次の場面に行く。次のカットが予測されるならそれはなくていい、という姿勢が気持ちいい。編集は誰かと思ったら『マトリックス』三部作のザック・ステーンバーグだった。
そんなタイトな映像に相応しいクールさとタフさを体現する主人公が、弱さも少なからず持っているという設定も魅力。その難しいバランスがうまく保たれているのは、身体的な苦痛を感じさせる肉弾戦の多用と、強者と弱者のどちらにも転がりそうに見えるジェシカ・チャスティンの持ち味の相乗効果か。