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ザ・ルーム・ネクスト・ドア (2024):映画短評

ザ・ルーム・ネクスト・ドア (2024)

2025年1月31日公開

ザ・ルーム・ネクスト・ドア
(C) 2024 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved. (C) El Deseo. Photo by Iglesias Mas.

ライター5人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4.2

相馬 学

生き方も死に方も、自分で決める

相馬 学 評価: ★★★★★ ★★★★★

 ここ数年の英語による短編映画を経て、そのひとつ『ヒューマン・ボイス』のT・スウィントンを主演のひとりに起用した、アルモドバル初の英語長編。尊厳死というテーマを世界的に問うという点で、意欲作といえよう。

 とはいえ、題材の重さを必要以上に強調しないアルモドバルの軽妙さは健在。これまでの死を見据えた作品と同様に会話にユーモアがにじみ、寄り添い、寄り添われる親友同士の関係性にぬくもりがあふれる。

 オスカー女優ふたりの共演はもちろん、アルモドバル作品らしい映画の引用も効いており、とりわけ名匠ジョン・ヒューストンの遺作『ザ・デッド/を「ダブリン市民」より』を観ていれば感慨も深まるだろう。

この短評にはネタバレを含んでいます
平沢 薫

すべての"生"の隣の部屋には"死"がある

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 タイトルの"隣の部屋"とは、作中では死を選んだ友人が眠る部屋のことだが、あらゆる"生"の隣の部屋には"死"があるということも意味しているだろう。すべての人間にやってくる"死"というものにどう向き合うか。それを問いかける物語を、どこまでも明るい光と、ライトグリーン、赤、黄色という目にも鮮やかな色彩で描いたところに、ペドロ・アルモドバル監督の主張がある。登場人物たちの衣服も家も庭も鮮やかで美しい。

 不治の病を得て安楽死を選んだ人物と、それを見守ることを引き受けた人物、それぞれ別の性格を持ち、どちらも強い女性2人を演じる、ティルダ・スウィントンとジュリアン・ムーアの静かな演技対決も見もの。

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森 直人

かっこいい大人達の途轍もない気持ちの深み

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

NYを舞台にした英語作品でもアルモドバルは変わらない。むしろスペインのローカリズムから離れることで、この作家が本来的に備える抽象性の純度が増した趣だ。生と死、母性や親子の愛、女性達の連帯など、彼が先駆的に描き続けてきた主題や感情がメメント・モリの回路を通し、スウィントン&ムーアという最強W主演を得て、歌声の響きや呼吸は一層感動的に深くなる。

『イタリア旅行』(ムーアの役名はイングリッド・バーグマンに当てたものだろう)が示唆するように、この尊厳死は新たなドアを開く「旅」だ。『ザ・デッド』の引用は死と生の永劫的なサイクルを願うものだろう。タトゥーロの重要な発言、ついでに「お~いお茶」にも注目!

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猿渡 由紀

初の英語での長編ながらとてもパーソナル

猿渡 由紀 評価: ★★★★★ ★★★★★

アルモドバル初の英語での長編映画ながら、とてもパーソナル。彼がずっと執着してきた「死」というテーマを、ふたりの女性の対照的な視点から見つめる。彼の母国スペインでは尊厳死が認められているので、この話は成り立たず、ニューヨークを舞台にした英語の映画で語る理由、必然性があったのだ。
 ムーア演じるイングリッドはアルモドバル自身を、一方、スウィントンのマーサは、死ぬ権利を信じる彼の思いを反映。映画が進んでいくうちに、そのふたつは自然にひとつに重なっていく。全体の色やデザイン、それにアートや本をあちこちに織り込むのも、いかにも彼らしい。ふたりのオスカー女優の初共演は断然見どころだ。

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斉藤 博昭

演技とルックは美しく、テーマは異例なほど真っ直ぐに。傑作!

斉藤 博昭 評価: ★★★★★ ★★★★★

これまで何度も「死」を扱ってきたアルモドバルだが、本作は限りなく死をポジティブに捉えようとするスタンス。気を衒わず、安楽死という深刻極まる要素に真っ直ぐ向き合い、驚くほどストレートに心に突き刺さる作風となった。死を見守る側(家族や恋人でないのがむしろリアル)の切実さ、恐怖も痛いほど伝わる。
自分の運命は自分で決める。そんな心情を時に頑固に力強く、時に迷いも垣間見せて表象するT・スウィントンは神々しいほど。結末の後の余韻が、ここまで静かに長く続く作品も珍しい。
美術や衣装のカラーが、アルモドバル作品の中でも特段の鮮やかさに感じるのは、それでも現世を生き続ける素晴らしさを密かに訴えているかのよう。

この短評にはネタバレを含んでいます
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