ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う! (2013):映画短評
ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う! (2013)ライター6人の平均評価: 4.3
画一化された社会に反旗を翻す酔っ払いたち
マニアックな侵略型SF映画にオマージュを捧げた作品。大人になれない大人の悲哀を笑い飛ばしつつ、でもさ、社会の歯車みたいなクソつまんねーオヤジになるより良くない?と主人公の肩を持つ辺りがエドガー・ライト監督らしい。
町の住民がエイリアンに乗っ取られるのは「ボディ・スナッチャー/恐怖の街」、侵略を見て見ぬふりする無責任な連中は「原子人間」…。とはいえ、元ネタ探しはあくまでもオマケだ。
エイリアンに支配された町はチェーン店ばかり。一見すると豊かだが画一的で味気がない。これはグローバリズムによる近代化と引き換えに、個性や自由を失った現代社会へ反旗を翻す酔っ払いたちを描く鋭利な風刺コメディなのだ。
こっちの“セカオワ”は、カーペンター×『五福星』!
監督と主演コンビが一旦離れ離れになってからの再結集作だけに、“オヤジ版『ロミーとミッシェルの場合』”な同窓会コメディから始まる展開は、じつに感慨深い。その後、ジョン・ウィンダムなど、SF作家の影響…というより、監督の世代的にリメイク版『物体X』『光る眼』といった、ジョン・カーペンター監督作への想いが激アツ(ラストも!)。
おまけに『ブルークリスマス』もビックリのエイリアンとのバトルの演出は、ジャッキー・チェンの愛弟子。酔っぱらい=『酔拳』というアホすぎる発想での起用だが、イスを使ったニック・フロストの動きはどう見てもサモ・ハン・キンポー。つまり、主要キャラは五銃士でなく、『五福星』なのだ!
あっぱれな振り切れ、ビール片手でぜひ!
大人になれないダメ男の成長をジャンル映画のフィルターをとおして描いた、エドガー・ライト監督の三部作完結編。前2作『ショーン・オブ・ザ・デッド』『ホット・ファズ~』が好きならば間違いなく本作もイケる。
インベージョン物のSFを下敷きにしてコメディを展開させる。そんなライト監督の演出は今回も快調。中年になっても学生気分が抜けない主人公にふんしたサイモン・ペッグの妙演もしかりで、“コイツ、アホだなあ”と思いつつも共感してしまう。
前2作から比べて進化と言えるのは、かなり思い切った結末。詳しくは述べないが、飛躍の凄まじさに拍手したくなる。マジメに見る必要はナシ。観る側も酔っぱらうべし!?
つまらない大人になるな! 反抗期よ永遠なれ?
前2作で異常事態に直面した凡庸な人間の怯えとサバイバルを笑いに昇華させるジャンルを確立したトリオの心に潜む少年は今も健在! 本作は人生の頂点だった高校時代にしがみつく“マン・チャイルド”ゲイリーがかつて断念した「ゴールデン・マイル」制覇に挑む展開。偉業は実は単なる町のパブ12軒のはしごで、のっけから脱力。しかし酒が回るとともに始まる『ワイルド・スピード』なみの暴走と過去作を超えるバカバカしい異常事態発生にトリオの攻めの姿勢が光る。主人公たちが戦う相手が実は、社会人ゆえの束縛感や退屈な日常のメタファーなのがライト監督らしい。つまらない大人になるな、反抗期よ永遠なれってこと。
エドガー・ライト監督作に(今のところ)ハズレなし
SF映画ファンとUKポップファンは、ただ平伏すしかない。40代になってもスープ・ドラゴンズの「I'm Free」が自分のテーマ曲だと信じる男が久々に故郷に帰ると、そこは「ボディ・スナッチャー/恐怖の町」で「光る眼」になっていた、そんな映画なんだから。
「ショーン・オブ・ザ・デッド」「ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!」と本作で完結する三部作が描くのはみな、ダメ人間たちが自分流のハッピーを手に入れるまでを、オタクネタとギャグとナイスな音楽たっぷりに描く、ダメ人間専用の理想郷。そして、エドガー・ライト監督自身もその楽園の住民に違いない、と観客に確信させるところに、この監督の真髄がある。
「ショーン・オブ・ザ・デッドPart2」の趣も。
入口はいかにもなジャンル・ムーヴィ。だけど、いつしかまったく違う次元へと観客を導くのが「ライト&ペッグ&フロスト」トリオの映画だ。今回の出発点はいわゆる「同窓会コメディ」。でも事態は途中から激変、とんでもないハナシにボディ・スナッチングされるわけ…ってまあ、あからさまなネタバレは避けたいが(笑)、何度も映画化されたそのネタは共産主義の恐怖の暗喩といわれたもの。でも本作ではカフェチェーンに代表される画一化、グローバリゼーションへの、資本主義からドロップアウトした酔いどれオッサンの皮肉と抵抗へ換骨奪胎されているのが小気味いい。リアルさ無視で炸裂するクンフーアクションも爆笑必至。