ジェイソン・ボーン (2016):映画短評
ジェイソン・ボーン (2016)ライター5人の平均評価: 3.4
原点に回帰したグリーングラスの職人芸だけでOK
主人公名を題名にした点からも察せられる原点回帰。原点とはポール・グリーングラス監督が初めてシリーズの演出を手がけた2作目『ボーン・スプレマシー』のことだ。
同作の秀逸さ――状況をスピーディなカット割りでリアルに見せる――に立ち返った点が嬉しい。ポーンとCIAの駆け引きの描写も、派手なアクションがないのにダイナミックなもの感じることができる。
3作目『ボーン・アルティメイタム』で強調されたアクションの肉体性は、第二班監督ダン・ブラッドリーの降板が影響したのか、希薄。アクションのイノベーターとしての役割をボーンは終えたのかはわからない。が、グリーングラスの職人芸だけでも元はとれる。
監視社会の怖さが際立つシリーズ第5弾
マット・デイモンが9年ぶりにシリーズ復帰した5作目。トレッドストーン計画とジェイソンの父親(グレッグ・ヘンリー!)の知られざる関係を物語の軸にしつつ、政治や権力に対する強い不信が渦巻く今の世界情勢を色濃く反映させていく。
中でも際立つのは監視社会の深刻さだ。通信衛星や監視カメラなどによって、世界中のどこでも行動や会話はCIAに筒抜け。国防という大義名分もと、外国の一般市民をも平気で巻き添えにしかねない怖さが浮かび上がる。
息をつかせぬスピーディーで大掛かりな展開も絶好調。特にクライマックスのカーチェイスは文句なしに圧巻だ。ツッコミどころも少なからずあるが、トータルでは期待以上の面白さ。
YahooもFacebookも信用しないほうがいいかも
暗殺マシーン、ボーンの帰還なわけだけど、ミレニアル時代のスパイの必須知識であるコンピュータに精通しているあたりがすごい。いつの間に? SNSにバックドアを仕掛けた作戦を暴くのがメインと思いきや、やはり過去が亡霊のように蘇るわけで、このシリーズの様式美は健在。コンピュータの位置情報を駆使するアクションなど時代性を反映させたアクションも見応えあるし、ファンはたまらないはず。でもでも、気になったのはやはりトミー・リー・ジョ―ンズ演じるCIA長官主導の作戦。YahooがFBIに協力してるという報道も出たし、各SNSがバックドア作っててもおかしくない。そんなSNSがあればスパイは不要だしね。
グリーングラス監督が動体視力の限界に挑む
ストーリーも、アクション演出も、シリーズの集大成。まずストーリーは、"ジェイソン・ボーン"とはどんな理由から生まれた存在なのかというシリーズの根本にある謎に、くっきりした答を出す。その謎を解き明かす過程に、これまでのシリーズの登場人物たちを絡めているところが巧い。アクション演出も、ポール・グリーングラス監督がシリーズ第2作で用いた手法の集大成。その後の映画に大きな影響を与えた、手持ちカメラを多用して細かいカット割りで見せるあの演出法を極限まで推し進め、観客の動体視力の限界に挑戦。最初は刺激過多に感じられるこの演出が、映画のクライマックスに至る頃には、すっかり快適な刺激になっている。
グリーングラス監督好きとしては、あまりに複雑
素直にボーン復活は喜ばしく、ジュリア・スタイルズのニッキーが追われる側となり、アリシア・ヴィキャンデル演じる新キャラが追う側になる、いかにも“新章”な設定も悪くない。とはいえ、これがポール・グリーングラス監督作というのは、あまりに納得いかない。ハッキングの件をはじめ、演出に恐ろしいほど緊張感がなく、アクションを畳みかける構成がより単調に。十八番だった手持ちカメラも空回りだ。確かにラスベガスのカーチェイスは圧巻だが、監督の名を広めた『スプレマシー』には劣り、暗殺者役のヴァンサン・カッセルの存在感はあるものの、格闘シーンも革新的だった『アルティメイタム』に遠く及ばず。一体、監督に何があったんだ!?