アリー/スター誕生 (2018):映画短評
アリー/スター誕生 (2018)ライター6人の平均評価: 4
圧巻の歌声はもとより「クーパー監督」というスター誕生こそ収穫
この物語がハリウッドで繰り返し映画化されるのはなぜか。一世を風靡しながらも転落していくアーティストと、無名の存在から見出されスターへの階段を上昇していく新たな才能の人生の交差。それはショウビズ界が、変わらないために変わり続ける不変の法則だ。圧巻の歌声はもとより“女優レディー・ガガ”というスター誕生も招いた本作だが、最大のスターはブラッドリー・クーパーだろう。前任者の降板によって座を射止めた、俳優クーパーの鮮烈な監督デビュー。肉薄し続けるカメラワークによって、ハイレベルの化学反応を引き起こして役者の内面に分け入り、観る者の心を掴んで牽引する演出こそが本作成功の要因だ。
70年以上昔から変わらない男性の思考はいいの?
実力はあるのにくすぶっていた女性が男性スターに見出されて成功し……という夢のような物語の4度目のリメイク。今までは家族を養うのは男性という考え方が普通だったので、妻の成功に苦悩する男性像も納得だが、21世紀も同じでいいの? 抜群の歌唱力と演出力を発揮して監督デビューを果たしたB・クーパーが心に傷を負っている歌手を熱演しただけに脚本にひねりがなかったのが残念。自己犠牲は高邁だが、ほかの選択もあったはず。役者の演技もサントラも素晴らしいだけに、男性の思考が70年以上も変わらない点が非常に気になった。ガガ様はコンプレックスでもあった素顔を晒し、女優になりきっている。彼女にはさらなる高みが待っている!
バーブラやジュディへのオマージュも見逃せない
今回が4度目の映画化となる『スター誕生』。大規模なロックコンサートから幕を開ける脚本・演出はバーブラ・ストライサンド主演の’76年版をだいぶ意識しており、オマージュ的なシーンやセリフも少なくない。また、タイトルバックでレディ・ガガが「虹の彼方に」の一節を口ずさむという、’54年版ジュディ・ガーランドへの目くばせにもニヤリ。偉大な先人たちにきちんと敬意を払いつつ、従来の「芸能界の光と影」よりも「愛情」にフォーカスすることで、ハリウッド・メロドラマの王道と呼ぶべきストーリーに新たな生命が宿される。レディ・ガガの見事な芝居もさることながら、ブラッドリー・クーパーの演出と音楽の才能にも驚嘆。
徹底した作りこみで、古き良きメロドラマが現代に復活
1937年に製作された『スタア誕生』の3度目のリメイクで、物語は1976年製作版に近い。いわば、これまで何度も目にしてきた成功と悲劇のメロドラマで物語的には新味はないが、それでも魅入ってしまう。
監督兼主演のB・クーパーとヒロイン、レディ・ガガは映画を支える2本柱。前者の丁寧な演出や堕ちてゆく男の好演、後者のアップに耐える感情面の熱演が噛み合い、グイグイと引き込まれた。
音楽の作りこみも注目に値する。ニール・ヤングやザ・フーをヒントにしたという劇中のオリジナル曲は、劇中のロックのカリスマという設定に確かな説得力をあたえる。言うまでもなく、ガガ様の歌唱力も素晴らしい。
酒と泪と男と女
ファーストカットから何かが違う! 確かに女優としてのガガもスゴいが、これはもう完全にブラッドリー・クーパー監督の映画以外、何物でもない。このご時世、確かにMTV的演出という選択もあったかもしれないが、師であるクリント・イーストウッドから引き継いだ企画をクーパーは、「酒と泪と男と女」なベタドラマを師同様、重厚な演出でじっくり魅せる。そのため、『ボヘミアン・ラプソディ』的グルーヴ感を期待すると、肩透かしを覚えるかもしれないが、76年版よりも遥かにいい仕上がりなのは確か。また、ガチでカウボーイにしか見えないサム・エリオットの存在感など、じつは男泣き映画でもあったりする。
ガガ様の表現力にうなる、王道&直球勝負の見ごたえ
想定外の演技力を発揮した、『エビータ』のマドンナを思い出した。表情とセリフで観客の心をつかむ天性の能力が、レディー・ガガに備わっていることを本作は迷いもなく証明する。冒頭、バーのカウンターさえも肉体の一部にして歌い踊る「ラ・ヴィ・アン・ローズ」で一気! その後の“素顔”なガガの初々しさの虜にならない観客はいないだろう。ブラッドリー・クーパーも男の哀愁と驚きのボーカルの才能で、しっかりサポート役を好演。何より、監督として物語に対して実直な演出をみせる。過去の『スター(スタア)誕生』からの引用も含め、とにかく実直すぎる印象。ここまで王道のラブストーリーは、最近の映画には珍しく、逆に新鮮かも!?