アメイジング・スパイダーマン2 (2014):映画短評
アメイジング・スパイダーマン2 (2014)ライター8人の平均評価: 3.1
等身大の苦悩する青春像×屈折した心性の象徴としての敵役造形
内向的な主人公が一気にロマンスに駆け上がる前作には抵抗があったが、今作はキャラクタードラマとして練られている。コミック版に忠実であろうとしたサム・ライミ版に対し、マーク・ウェブ版は同時代に根ざす。失われた父性の影が覆う中、等身大の苦悩する青春像と、屈折した心性の象徴としての敵役の造形が明快。
デイン・デハーンが放つ狂気は、主人公を食うほどに魅力的だ。エマ・ストーンの大きな眼と艶やかなゆで卵のような顔は3Dに映える。アクションの空間設計も考え抜かれている。同時期公開作『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』とは対照的なポップコーンムービーとして捉え、目くじらを立てることもない。
既視感を断ち切り、独自の路線を歩み出す
サム・ライミ監督による三部作に慣れ親しんだファンには、リブート1作目の『アメイジング・スパイダーマン』は既視感がありすぎたかもしれない。その点、2作目は独自の路線を歩み出したと言っていい。
悪役エレクトロのキャラに、まず好印象。誰にも注目されず、ただ忘れ去られるだけの人間の鬱憤が負のエネルギーを増幅させ、最大の敵となる。そんな小市民の激情がドラマを面白くしている。
さらに結末では予想外の展開に発展。原作のファンならば、こういうクライマックスも選択肢のひとつとして予測していたかもしれないが、少なくともライミ版のファンには意外に思えるはず。そして3作目が待ち遠しくなる!
ようやくウェブ監督の起用理由が明らかに
前シリーズのサム・ライミ監督に比べ、マーク・ウェブ監督は圧倒的にヲタ魂&キャラ愛が欠け、せっかくのエマ・ストーン抜擢もムダ使いと、結局良かったのは3D技術と『超高層プロフェッショナル』のオマージュだけ、と散々だった前作。
今回は原作通りのラストも含め、ピーターとグウェンのビター&ストーリーなラブストーリーに重点を置いた展開で、ようやくウェブ起用の意味合いが出てきた。とはいえ、2人以外のキャラ愛は相変わらずなく、ジョエル・シュマッカー監督の『バットマン』シリーズばりに“有名スターが悪役やってますけど”状態。さらに進化した3D技術もあり、デート&ファミリームービーとしてはベストなんですけど…。
戦闘時の決断力を恋愛にも生かせ
゛等身大のヒーロー゛を意識するとこうなるのか。あの『ガッチャマン』も三角関係に苦しみ、年老いた親を憂慮して戦線離脱したいと弱音を吐いていたが、本作もスパイダーマンことピーターは恋人グウェンとの恋愛で悩みっぱなし。観客に叱咤激励させるくらいのゆるいヒーローが、シネコン時代の幅広い客層に合うのだろうか。
おかげで今回の敵となる電気技師マックスも幼馴染ハリーも、ダークサイドに堕ちる過程があっさり。しかも誤解や逆恨みで、ものの10秒程で牙を剥くから厄介だ。大人げないキャラクターたちを前に、どれだけ観る側が寛容になって2時間23分を楽しむか。我々の方が人間性を試されているような気がする。
リア充スパイダーマンの本格展開
ハイスクールの卒業式。恋人は名門校の総代で、人気者スパイダーマンはピーターに戻り壇上に登ってキス…!
と、冒頭からリア充全開!! サム・ライミの旧シリーズは童貞イズム濃厚な葛藤にグッときたが(特に『2』は傑作)、マーク・ウェブは前作の爽やかイケメン路線を独自に強化。『(500)日のサマー』を彼のコアとすれば、チェーン店的なわかりやすい味に徹したメジャー化と言える。
「橋に蜘蛛の糸でI LOVE YOU」という眠りに落ちそうな描写も出てくるが、その後のビターな展開を考えればデートムービー的にバランスが取れているのだろう。
しかしハリウッド3Dの洗練は凄い。以前のように目が疲れないもんなあ!
「(500)日のサマー」の監督は、ヴィランの痛みを描く
サム・ライミ監督による名作がある以上、同じことは出来ない。そこで「(500)日のサマー」のマーク・ウェブ監督は自分に出来ることに徹し、"微妙な心の揺れ"に焦点をあてて、このサーガを描く。
第1作で"恋することの喜びと恐れ"を描いた彼は、この第2作ではそのモチーフを続けつつ、さらに"ヴィランになることの痛みと秘めた歓喜"を描いてみせる。グリーン・ゴブリンは切なく、エレクトロは哀しい。
勿論、ヴィランの造形には美学が足りず、ヴィランは多過ぎ、いやその展開は…と難点は多い。が、ピーターとハリーが童心に返って川辺で水切りに興じる、そんな情景が見れたのは、この監督だからに違いない。
サイドキックはキュートなリケジョ!
アメイジング版はライトノベル的で見やすいのが特徴だが、今回はマーク・ウェッブ監督と脚本家チームが暴れまくっている。スパイダーマンが戦う悪役はなんと3人で、そのうちの2人とは個人的な因縁があるのだから世界は狭い! 笑わせてもらったのがジェイミー・フォックス演じるエレクトロで、可愛さ余ってスパイダーマンを憎悪する。ほぼストーカーでキモい。そしてアクション以上に本シリーズの華となっているグウェンとピーターの恋愛パートがまたチャーミング。守ってもらうだけじゃなく理系知識でスパイダーマンに戦術アドバイスまでしちゃうグウェンのサイドキックぶりもキュートで、男心だけじゃなく女心もつかまれました。
“電送人間”部分は技術屋さんの想いが籠っているような。
やはりこのシリーズ、仕切り直しが性急すぎた。どうしてもS.ライミ版と比べられるだけに、差別化しようとしすぎてとっちらかった脚本が酷い。監督も自分らしさを巧く出せずに足掻いているよう。例えば「イギリスにも悪人はいるさ」みたいな噴飯ものの台詞さえ納得させてしまうほどの青臭い恋愛系にシフトしてもよかったんじゃないか?…というのは傑作『(500)日のサマー』を踏まえて言ってるのだが。ヴィランにしても、完全にギャグ扱いなライノはともかく、グリーン・ゴブリンでさえ蛇足でしかないとは。ならばもう、“認められない、注目されない、目立たない”技術屋の卑屈鬱屈の権化エレクトロ一発でいったほうがユニークだったのに!