ベイマックス (2014):映画短評
ベイマックス (2014)ライター5人の平均評価: 3.8
「ピクサー路線の強化」的に練り込まれたお話が凄すぎ!
ジョン・ラセターのディズニー加入は08年の『ボルト』からだが、真の新生ディズニーは女子物語を恋愛至上主義から解放した『アナ雪』が端緒だろう。一方、男子用ディズニーアニメは完全にピクサー路線を強化させている。
ピクサーは『トイ・ストーリー』から「イノセンスの喪失」という主題を抱えてきたが、特に9.11以降は『Mr.インクレディブル』『カーズ』など米国の回帰ムードとも絶妙に歩調を合わせてきた。故にマーベルへの接触は納得。今作は少年ヒロの復讐心の扱いにアンガーマネジメントを導入しており、徹底的に考え抜かれた脚本との印象。
もちろん『パシリム』的な日本ネタ(ダイナミックプロ色強し)は単純に愉しい!
アナ雪とは視点が異なるディズニー・フォー・ボーイズ
前面に打ち出したホンワカ感も確かに魅力的だが、それ以上に冒険のスリルや、ヒーローたちの友情が印象に残る。マーベル・ブランド色を取り込んだ、ある意味ディズニーの新境地。
兄の死の真相に迫る少年の冒険はスリルを醸し出すうえでうまく機能しており、ドラマの中に引き込むパワーが宿る。ベイマックスは、それを刺々しくしない癒しキャラ。それらのバランスの良さに、ディズニーの美学が見て取れる。
『アナと雪の女王』が新世代のプリンセス・ストーリーならば、本作は『シュガー・ラッシュ』から連なる新世代のヒーロー活劇。少女向け・少年向けというディズニー・アニメーションの棲み分けが明快になった点でも興味深い。
楽しいけれど…本当にこれでいいのかディズニー?
原作知らないと予想と全然異なる内容に唖然となる観客は多いはず。少年とロボットの友情物語は二の次、がっつり戦隊アクションモノなのなのだから。しかしわざわざ大ディズニーがスタン・リーまで担ぎ出し、子会社マーベルへのオマージュじみた映画を作る必要があるのか、という疑問は拭えず。ラストの闘いも『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』を想わせるし、そもそもマーベルの実写映画だってVFXシーンはつまりは3Dアニメーション、リアルな画づくりをすればするほど両者の違いが曖昧になってくる。フレッドの着ぐるみがAIP映画のP.ブレイズデル風デザインだったり嬉しいところもあるが。
エンドロールの後もお見逃しなく
ほとんど原型はとどめていないが、原点はマーベル・コミック。マーベルがディズニー傘下になって実写ヒーロー映画は続々登場したが、アニメでマーベルとディズニーがコラボするのは本作が初めて。そこでマーベル的な要素がどう反映されるのかと思ったら、中盤でニヤリな小ネタが登場。そのうえ、実写マーベル映画と同じに、エンドロールの後にオマケシーンが! そこに楽しいサプライズが待っている。
もちろんマーベルを意識しなくてもOK。東京とサンフランシスコをミックスした街の作り込み。日本の戦隊レンジャーもの、友だちロボットものへのオマージュ。ベイマックスの空気で膨らんだ体の押すとヘコむ質感に、ただ讃嘆。
5人のおたく+1
原題「Big Hero6」が示す通り、“5人のおたく+1”な理系『キック・アス』軍団が、邪悪な『カブキマン』に戦いを挑む本作。要は『Mr.インクレディブル』とタメを張るアメコミ・オマージュ大会で、決して『STAND BY ME ドラえもん』みたいに、泣かせを強要する映画じゃないのであしからず。『リアル・スティール』なロボットアニメ愛のほか、『モンスターズ・ユニバーシティ』に続く大学あるあるも悪くない。ラストにしっかり“あの人”を出すなど、ちゃんと筋も通しているが、いくら『アベンジャーズ』の映画化権を持ってるからって、天下のアニメスタジオでも、わざわざこれをやる必要があったのかという疑問は残る。