はじまりのうた (2013):映画短評
はじまりのうた (2013)ライター4人の平均評価: 4.3
新時代の方向性を映画で提示する音楽業界への叛旗?!
冒険心を失ったポップス業界へのアンチテーゼ。NYのあちこちでゲリラ・ライヴ録音とヴィデオ・クリップ作りを同時に行い、アルバムにまとめてネットで販売、ってもう絶対真似してる人がいそう。街の音を積極的に取り入れるという方針を打ち出すなど、いかにも『ONCE ダブリンの街角で』の監督だ。街と音楽との関係となるとK.ナイトレイとM.ラファロがスプリットイヤホンで同じ音楽を聴きながら街をめぐるシーンが象徴的だが、“平凡な風景が意味のあるものに変わる”ウォークマン効果を経てもストレートな恋物語に終わらせないのが大人、ってところか。まさに子はかすがい、ラファロの娘のパンクギターの下手さもちょうどいい感じ。
商業主義否定の青臭さがとてもチャーミングな快作
都会の片隅で出会った孤独な男女が音楽という絆で結ばれる設定自体は、監督の大ヒット作『ワンス/ダブリンの街角で』と同様。前作に比べると予算は潤沢で、大スターも登場するが、根底にある“商業主義に魂売る奴はアーティストにあらず”の姿勢は変わらず。それがヒロイン、グレタの生きる姿勢に反映されていて、痛快だ。「ヒットしたらギャラ払う」約束をされていたバック・ミュージシャンの立場を思うと彼女の決断に「?」とも思うが、人生に妥協し続けた身に青臭い理想主義がチャーミングに感じられるのは当然だろう。後半、元恋人の反省パフォーマンスにもうるっと来た。主演キーラ・ナイトレイの歌声は雰囲気があり、耳に残る。
『あと1センチ』の次はこれ!
NYに舞台を移しても、音楽を通して男女が心を通わせる展開やストリートの空気感が伝わる演出は、『ONCE ダブリンの街角で』と何も変わらない。とはいえ、男女を片や『フォックスキャッチャー』で、片や『イミテーション・ゲーム』でオスカー助演(←ココ重要)候補になった2人が演じ、音楽業界あるあるを交えたことで、より映画的な広がりをみせている。さらに、それぞれのキャラ視点で同じシーンを描く『桐島』的オープニングも、最初は疑問を抱きながら、次第に2人に感情移入していく効果をもたらす。恐ろしいほどにデートムービーであることや、イギリスとアメリカを繋ぐ物語という意味で、『あと1センチの恋』の次はこれ一択!
身の丈のままダブリンからニューヨークの街角へ
米国にやってきた『ONCE ダブリンの街角で』の監督が、ハリウッドの慣習に染まらずにD.I.Y精神を厳守した音楽系ドラマ。そんなマイナーメジャーな作風が、そのまま音楽業界をめぐる物語に繋がっているのが面白い。
ラップトップで街角録音を進める本作の主題は、言わば旧態依然としたシステムへの挑戦状。映画の作りは柔らかくウェルメイドだが、主張は結構ラジカル。舞台がN.Y.ってのはメインストリームへの距離感という意味で象徴的かも。
K・ナイトレイのか細い歌唱は好みが分かれるだろうが、彼女の元カレ役を演じるマルーン5のアダム・レヴィーンは必見。「売れて変わっていく男」の設定が戯画化した自画像っぽい!