ナイトクローラー (2014):映画短評
ナイトクローラー (2014)ライター6人の平均評価: 3.8
夜の都会を這う下衆男。
ノー学歴ノー職歴、ネットで学んだビジネス書のもっともらしい警句吐くばかりなニートのくせにいわれのない自信に満ちたクズ男ながら、人間性なんてものは埒外な下衆なコトやりはじめたらこれがまた天職だった!という露悪的なピカレスク劇。残念ながら今のネット社会の倫理レヴェルからすると話そのものはありきたり一歩手前で、例えばB.ワイルダー『地獄の英雄』のような時代認識を覆すような衝撃はないが、物語るテンポのスピード感と完全にイッちゃってるジェイク・ギレンホールの目、何よりPTA映画でもナイト・シーンに底力を発揮するR.エルスウィットの撮影が、都会の闇の危うい魅力をシャープに捉えて見事だ。
狂気が恐怖を呼ぶ現代の『タクシー・ドライバー』
何より強烈なのは主人公の“目”。「映画史に残るイヤなヤツ」という売り文句にも納得がいくが、何かを信じ切っているこの主人公の“目”には同時にキャラの説得力も宿る。
彼が信じるのは道徳ではなく、“成功”の哲学。地位や富を得ることを正しいと認識し、モラルはその信心に踏みにじられる。アメリカンドリームの暗部と、こんな人間が現実にいそうなリアリティ。それが伝わる点で、立派な恐怖映画だ。
夜の街を車で流す主人公にはLAとNYの違いこそあれ、公開時に“狂気”“病み”と評された『タクシー・ドライバー』の主人公にも似た狂気が重なる。主演のジェイク・ギレンホールの“目”には、確実にそれが浮かび上がる。
過酷な競争社会の生み出した卑劣なモンスター
生活苦に追い詰められた貧しい若者が、殺人現場や事故現場のスクープ映像を撮る報道パパラッチとなり、あらゆる卑劣な手段を使って障害や邪魔者を排除しながら成り上がっていく。
まるでハイエナのように他人の不幸を飯のタネにする主人公、報道倫理などお構いなしに彼から衝撃映像を買い上げて放送する地方テレビ局。恐らく不快に感じる向きも少なくないだろうが、しかし底辺の弱者である彼らにとって、それこそが現代アメリカの過酷な競争社会を生き抜く唯一の手段なのだ。
辛酸を舐め尽くした末にモラル概念の崩壊した若者を演じるジェイク・ギレンホールが圧巻。あのゾッとするほど薄気味悪い眼力の強さに身の毛がよだつ。
『ドライヴ』の興奮、ふたたび!
夜のLA、疾走するクルマ、そしてアンチヒーローともいえる主人公が爆発させる狂気――。3年前、『ドライヴ』に熱狂した者としては、あの興奮が再びよみがえってくる。なかでも、ボロ車とカメラ1台だけで、パパラッチ道を突っ走る主人公がとにかく魅力的だ。自分の親ほど年齢の違う女性ディレクターをもクドいたかと思えば、低賃金で雇ったアシスタントをボロ雑巾のように使いまくる。ここまで本能のおもむくままに動いてくれると、逆に清々しく、こんなラストもアリと思わせてくれるほど! ブラックコメディとしても見られる社会派サスペンスであるが、もうちょっとTV業界の裏側を突っ込んでくれたら完璧だった…という思いもある。
イエロー・ジャーナリズムに警鐘を鳴らすジェイクのサイコ演技
事故渋滞を生む運転手の好奇心は理解できる。ただTVで血まみれの遺体を見たいかと問われると……、きっぱり否。ところがアメリカでは扇情的な映像で視聴率稼ぎができるらしく、主人公ルーはショッキング映像を武器にTV界でキャリアアップする。彼の狡猾な手腕は惚れ惚れするほどで、好漢ジェイクの虫唾が走るキモ男ぶりに感服。痩せて、ギョロリと浮き上がった目玉が本当に怖い。『地獄の英雄』や『ネットワーク』、『ニュースルーム』とジャーナリズムの真髄を問う作品は大好き。でも、本作を見て時代はイエロー・ジャーナリズムに勝利宣言させるの?と不安が心をよぎる。ネットの発展でニュース・バトルが起きている今、見逃せない作品だ。
ジェイク・ギレンホールが現代的な悪を怪演!
この夜は生あたたかい。見えないところで、いろんなものが腐敗していく臭いがする。その不穏な気配を映し出す撮影は「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」「インヒアレント・ヴァイス」のロバート・エルスウィット。このカメラマンの映像は、暑く湿度の高い空気と相性がいい。
主人公は、別のことを目指しているのに、それと意識もせずに悪事に手を染めるという、現代的な悪を体現。この人物をジェイク・ギレンホールが、自身のアイデアだという激ヤセで、別人のような"悪相"に変貌して怪演。この俳優の少々常軌を逸しているかのような演技への情熱が、彼が演じる人物の異常な情熱と、見事にシンクロしている。