エージェント・ウルトラ (2015):映画短評
エージェント・ウルトラ (2015)ライター6人の平均評価: 3
もっとバカに徹しても良かった荒唐無稽なスパイ・コメディ
マインドコントロールされたスパイが一般市民の中に紛れ込み、なにかの合図をきっかけに覚醒するという題材は、チャールズ・ブロンソン主演の『テレフォン』などでも描かれてきたが、本作では極秘計画によって生み出された潜在スパイの若者が、その事実を隠蔽しようとするCIAから命を狙われる。
ど田舎のボンクラ青年が実は凄腕スパイでした!という一点のみで強引に突っ走る本作。スプーン一本で敵をぶっ殺しちゃう主人公VS特殊部隊総動員で攻撃を仕掛けてくるCIAのハチャメチャなバトルがトボけた笑いを生むわけだが、いまひとつ振り切れ具合が弱いという印象。荒唐無稽をやるならもっとバカに徹しても良かったように思う。
続篇も可能だけど、作れば本質が壊れる危うさがイイ。
パニック障害で田舎町から出られず(でもせいぜい夢はハワイ)、ラットフィンクじみたサルのアングラコミックに自らを託して卑下する負け犬ギーク。そんな男にゃなんとも勿体ない彼女だよなあ、と思って観てると、モラトリアム男子の心象に寄り添う妄想レヴェルで物語は理想的な展開に。近ごろ高い水準で連発されるスパイもの+ヤングアダルトSFものを併せたような物語に新味はないが、徹底したオフビート趣味がジェシー&クリステンのキャラに似合ってなんとも可愛い出来。脇役キャストの扱いは雑すぎるが、ジョン・ランディスの息子であるマックスの本領は『クロニクル』より案外こっちなのかも。木と車の例えはちょっと泣ける(笑)。
アイゼンバーグのレックス・ルーサーがますます楽しみ
脚本は「クロニクル」のマックス・ランディス。監督は高校生大騒ぎ映画「プロジェクトX」のニマ・ヌリザデ。この布陣で小さな町のコンビニでバイトするボンクラな主人公が、実は記憶を封印された最強戦士でーーな話なら、かなりハジケたブラック・コメディかと思いきや、過激さよりもオフビートな笑いのテイスト。政府機関による極秘最強戦士計画といえばアメコミの定番ネタで、主人公は"裏"キャプテン・アメリカだったりもする。ジェシー・アイゼンバーグは「ソーシャル・ネットワーク」以降でもこういうダメンズ役がお似合いで、彼が演じる「バットマン VS スーパーマン」のレックス・ルーサがますます楽しみ。
日本公開されただけでもいい…とは思えない
ほぼ同じコンセプトながら、どちらもオリジナリティを放っていた『クロニクル』の脚本家と『プロジェクトX』の監督が組んだとなれば、否応無しでも期待してしまうが、信じられないほどオフビートで、圧倒的に前出の2作が持っていたグルーヴ感に欠ける。『陰謀のセオリー』などでもネタになった機密プロジェクト「MKウルトラ」の1アイデアだけで引っ張るのは無理があったようで、どっちつかずなラブストーリーもイマイチ。エンドクレジットのような展開を期待していた人間にとっては、ロバート・アロンゾ指導によるアクションもイマイチ効果を発揮せず。ジョン・レグイザモなど、助演陣の使い方も、単なる出オチで終わっているのが残念だ。
『アドベンチャーランドへようこそ』カップルが再共演
ダサダサな大学生の恋を描く胸キュン映画で素晴らしいケミストリーを発揮したジェシー・アイゼンバーグ&クリステン・スチュワートが再共演というだけでうれしい1本。『影なき狙撃者』的に育成された凄腕エージェント、マイクがCIAの内紛に巻き込まれて命を狙われる展開は漫画的だし、暴力と笑いを融合させた脚本はタランティーノ風。とはいえ、マイクの事情徴収からフラッシュバックに以降する構成がスリルを軽減するのは失敗だろう。残念。ただしロマンス部分の比重が大きいので、バイオレンス嫌いの女子もOK! デート・ムービーとしてもお勧めだ。美貌に青タン作ってダメ男を支えるクリステンに共感する女子、多そう。
相性抜群のふたりを見てるだけでオッケー
ジェシー・アイゼンバーグ×クリステン・スチュワート=ダメ男&美少女のロマンス。『アドベンチャーランドへようこそ』を快作に導いた、このファンタジー的な公式を同一キャストに再現してくれたことが素直に嬉しい。
正直、記憶喪失スパイ映画としては既視感アリでジェイソン・ボーンの二番煎じととれなくもないが、トファー・グレイスやジョン・レグイザモのブッ飛んだコメディ演技が活きて、肩が凝ることなく笑って楽しめる。
ジェシー&クリステンが織りなす恋のドタバタも同様。何より、このふたりだから体現できる“ダメ”と“純情”のリアリティがイイ。ユルさはあっても憎めないのは、そこに理由があると思う。