LOGAN/ローガン (2017):映画短評
LOGAN/ローガン (2017)ライター8人の平均評価: 4.8
キャラクターへの愛あるはなむけ
容赦ない殺戮におびただしい血。
R15+の過激さに驚愕するが、
エンタメで終わらせまいとする製作陣の覚悟の表現である事に気づくだろう。
ミュータントとして恐れられ、
不老不死が悩みの種でもあった彼らに用意された老い、痛み、終焉。
それは紛れもなく彼らが人間である事の証であり、そんなラストを用意した製作陣の愛情に胸が熱くなる。
911後は”殺めたくないのにその宿命を背負ってしまった”という主人公の映画が増えたが、その割には事の重みが全く伝わって来ない作品も。
それを名作『シェーン』のワンシーンを活用して表現してしまった粋さ。
『ウルヴァリン: SAMURAI』を帳消しにしたい程の秀作である。
マンゴールド・スタイルのひとつの突出形
オールドスクールな「20世紀映画の遺産」を、いかに現代的にアップデートするか。それがJ・マンゴールド監督に内在する表現的主題だろう。『3時10分、決断のとき』『ナイト&デイ』、日活・新東宝的な無国籍活劇『ウルヴァリン:SAMURAI』も然り。その意味で今回は最も明確に21世紀映画の貌をした一本!
ジョニー・キャッシュの“The Man Comes Around”も肝(歌詞にPale Riderの言葉あり)。02年正規ラストアルバムの名曲。『ドーン・オブ・ザ・デッド』『ハンコック』『ジャッキー・コーガン』でも使われた。当然『ウォーク・ザ・ライン』繋がりの選曲で、最後まで監督の持ち味が全開だ。
ヒーローの衰えを直視して哀感あふれ、次世代に希望を込めた傑作
生身である以上、ヒーローも衰える。いつしかスーパーパワーも消えてゆく。アメコミ映画が遂にここまで来た。強さではなく弱さを、勇姿より人間味を描くのだ。傷だらけのウルヴァリン、介護を要するプロフェッサーX。老いと終末を直視し、満身創痍の激闘によるヴァイオレンスは熾烈を極め、ギリギリの生死を生々しく見せつける。そこに現れる、牙を剥く生命力みなぎる謎の少女。追手から三世代が逃走するロードムービー形式と、去りゆく者/滅びゆく者を象徴させた西部劇スタイルが絶妙に重なる。“人間ローガン”として辿る最後の旅は、哀感に満ちあふれながらも、次世代に希望を託すシリーズ史上最高傑作である。
全米R指定も納得の、大人のエンタテインメント
アメコミ映画でヒーローの晩年が描かれるのは珍しい。そこには幅広い年齢層に向けたハッピーなエンタメ感はないが、大人向けのドラマとしての歯応えは確かにある。
アダマンチウムの爪は往年の伸びを失い、痣や傷だらけのウルヴァリンのやるせなさ。そんな彼がプロフェッサーXの世話をする老老介護の切実さ。オープニングだけで、そんな生々しい現実が伝わる。
物語はウルヴァリンの最後の戦いへと展開するが、それは劇中でフィーチャーされる『シェーン』はもちろん『許されざる者』のようなイーストウッド作品の西部劇の香りを漂わせる。死闘の壮絶さに加え、去るもの、滅ぶものへの哀感。まさしく大人のためのエンタメである。
X-MEN史上最凶の容赦なきバイオレンス!
スーパーヒーロー映画らしからぬ、などと言うと語弊があるかもしれないが、しかしそれにしてもこの悲壮感たるや、まさしく滅びの美学ここに極まれりといったところ。世捨て人同然の荒み切ったウルヴァリン、ほぼボケ老人と化してしまったプロフェッサーXの姿には、シリーズを追いかけてきたファンなら切なさすらこみあげてくるはずだ。
基本的な枠組みは西部劇の応用だが、逃走する主人公たちと道中で関わった人々がことごとく悲惨な末路を遂げる容赦のなさはマカロニのそれに近いと言えよう。もちろん、バイオレンス描写も凄まじい。そして、万感の思いが駆け巡る男泣きのラスト。最終章としてこれほど相応しい幕切れはないだろう。
ヒュー・ジャックマンによるウルヴァリン論が完成
これが、ヒュー・ジャックマンがずっと描きたかったウルヴァリン像の完成形なのに違いない。ジャックマンがウルヴァリンの最後の舞台に選んだのは、あらゆるミュータント能力が失われていき、何かの終焉の気配が色濃く漂う世界。これまでの映画でさまざまな体験をしてきた主人公は、すでに自分の在り方を受け入れていて、何が敵なのかについても迷いがない。もう若くなくなったウルヴァリンは、そこでどのように生き、何に怒り、何に心を和ませ、最終的に何にもっとも価値を見出すのか。映画は、ウルヴァリンの生きざまを突き詰めいった結果、スーパーヒーロー映画の枠を超えて、ひとりの人間、ローガンの物語になっていくのだ。
有終の美とはこういうことだ!
スピンオフながら、『ファースト・ジェネレーション』にも匹敵する「X-メン」シリーズの最高峰。ディストピア感に満ち溢れた設定の面白さももちろんあるが、『3時10分、決断のとき』のジェームズ・マンゴールド監督らしく、あまりに分かりやすい『シェーン』など、西部劇に対するオマージュたっぷり。そこにアルツになったプロフェッサーXとの、『少林寺木人拳』のジャッキーぐらい話さないヒロイン・ローラとの、ドラマが胸に訴えかけてくる。ロードムービーとしての醍醐味もあるなか、R指定も辞さないヴァイオレンス描写が挿入されることで、さらにエッジが効いた仕上がりに。これまでアメコミ映画を敬遠してきた人ほど観るべき一作!
最後にして最高。スーパーヒーロー映画が苦手な人にもお勧め
1作目は脚本家のスト、2作目はダーレン・アロノフスキー監督の降板と、いろいろ困難に見舞われた「ウルヴァリン」シリーズが、有終の美を飾った。幅広い層へのアピールを狙うスーパーヒーロー映画には珍しく、R指定でいくという大胆な決断をした今作は、バイオレンスも過激でスリル満点だが、人間ドラマとしても優れている。スーパーヒーロー映画が苦手という人も、きっと感動するはず。ローガンが 行動を共にする少女ローラを演じるダフネ・キーンは、映画初出演の新人。セリフなしでも緊張感や、独特の変わった雰囲気を匂わせ、必要な時は攻撃的になるこの子の名演がなかったら、映画の成功はなかった。