グレイテスト・ショーマン (2017):映画短評
グレイテスト・ショーマン (2017)ライター7人の平均評価: 3.6
千両役者ヒュー様がクラシカルな世界に舞う!
時代劇ということもあり、ミュージカル・シークエンスには振りや群舞に同ジャンルのクラシカルな香りが漂う。そういう意味では、ハリウッドの伝統が健在であることを示しており、ゴージャスなセットを含めてきらびやかな世界が楽しめる。
そんなつくりに、『ラ・ラ・ランド』の作曲家チームが提供したポップ色濃いめの楽曲を組み合わせた点が妙味。必然的に、場面によってはダンスのスピード感が映える。
しかし何と言っても、最大の主役はジャックマン。歌とダンスがお手の物であるのはご存じのとおりだが、超ポジティブで陽気な主人公像に血肉と、躍動感をあたえているのもお見事。グレイテスト・ショーマンと彼のことでもある。
ブロードウェイのベテラン、キアラ・セトルの歌声がすごい
オリジナルミュージカルとあって、一番の魅力は、新しい歌の数々。中でもこの映画の看板的な歌となった「This Is Me」は、かなりインパクトがある。歌っているのは、トニー賞に候補入りしたこともあるブロードウェイのベテラン、キアラ・セトル。さすが実力派だ。人と違っていてもいい、そんな自分を受け入れて自分らしく生きようというテーマは、トランプ時代の今、とくにタイムリーに感じられるもの。だが、映画全体としては、あくまで軽いエンタテインメント作品。深く考えさせるというより、現実を忘れて、しばしファンタジーの世界に浸らせてくれる映画だ。
ミュージカルスター、ヒュー・ジャックマンの魅力が炸裂!
実在の興行師P・T・バーナムをモデルに、貧しい苦労人の主人公が、身体障害者や有色人種などマイノリティばかりを集めた奇抜なショーで大成功するも、社会の偏見や差別にさらされ悪戦苦闘する姿を描くミュージカルだ。
やはり最大の見どころはヒュー・ジャックマン。華麗な歌とダンスはもちろん、ロマンティックな男前ぶりにも一段と磨きがかかっており、惚れ惚れとするほど魅力的である。
ただし、19世紀の物語に現代アメリカの社会問題を投影させた脚本は、テーマありきが過ぎて深みに欠ける。「(脚本を書く際に)テーマを予断してはいけない。登場人物と一緒に探るんだ」という名匠ポール・シュレイダーの言葉が脳裏をよぎった。
愛すべきライト感覚のミュージカル
「105分という上映時間をどう受け止めるか?」で、本作の評価は大きく変わってくる。スピーディな展開は心地良く、とにかく観やすいが、ドラマとしては描き切れてない部分やダイジェスト感もあるため、キャラに感情移入するのはなかなか難しい。また、『ラ・ラ・ランド』以上に“残る”楽曲やヴィジュアルであるにも関わらず、ミュージカル映画特有の重厚感・胃もたれ感はない。とはいえ、胡散臭い博物館から、見世物小屋を経てのサーカスに命を懸けた興行師の話だけに、彼の狂気やフリークス愛もしっかり描写。明らかに作り手が意識していた『ムーラン・ルージュ』には及ばないものの、愛すべきライト感覚のミュージカルに仕上がっている。
映像そのものが俳優と一緒に踊り出す
日常にはない"驚異"で観客を楽しませようとする興行主の物語だから、普通のセリフや動作ではなく"歌と踊り"で表現される。だから"歌と踊り"の映像も、現実を超える、映画ならではの驚異的ビジュアルで描かれる。この姿勢が映画全編に貫かれている。監督にVFXマン出身の新鋭を起用したのも、このコンセプトのためだろう。その結果、映画の大部分が"歌と踊り"になり、音楽、身体表現、特殊効果映像の華麗な融合が展開する。それでいて"歌と踊り"の身体表現ならではの魅力は健在。ザック・エフロンがヒュー・ジャックマンと2人で歌い踊る時に、相手とは微妙に異なる音程と動きを試みる、そんな気配も捉えられている。
「一般向け」に徹したハイボルテージ良品
まさに『地上最大のショウ』(52年)ばりのサービス精神! 楽しい中に涙もあり、わかりやすく面白い。『バーナム』(86年)ではB・ランカスターが演じた伝説の興行師をH・ジャックマンが熱演。本物を検索するとルックス的にだいぶ盛っているのが判るが(笑)、内容もフィクショナルな華々しさで押し切っている。
構造は身も蓋もなく言うと『レ・ミゼ』+『SING』ながら、サーカスの起源をマイノリティ賛歌に読み直すのは現代的かつB・コンドン的。個人的には劇評家との“ちょっといい関係”がお気に入り。偽物や際物と揶揄された新奇な見世物(エンタメ)が、いかに本物の認知と評価を獲得していくかを描いた大衆芸術論でもある。
素直に楽しむべきか? 心に深くアピールする何かを求めるか?
ミュージカル映画に何を求めるか? その嗜好によって、大きく評価が分かれる作品だと思う。
『ラ・ラ・ランド』のコンビによる曲の数々は統一感があり、ジーン・ケリーとフレッド・アステアも重ねたくなるヒューとザックの掛け合いダンスは永遠に観ていたい。ただ、振付全体では、ロマンチックさが要求される部分も激しかったり、要するにメリハリに欠ける。
ドラマ部分も各人物の内面まで入り込まず、どんどん進んでいくので、感情移入しづらい。ゆえに多様性というテーマも頭では理解できても、心にまで訴えてこないのが残念。これが舞台の作品なら歌とダンスに素直に圧倒されただろう。ミュージカル映画の理想に思いを巡らせる一本。