ブラッド・スローン (2016):映画短評
ブラッド・スローン (2016)ライター4人の平均評価: 3.5
『ゲーム・オブ・スローンズ』ファンも必見の重量級犯罪ドラマ
これまで「刑務所」をキーワードとして、司法制度や矯正システムの落とし穴に斬り込んできたリック・ローマン・ウォー監督の最新作。飲酒運転事故で親友を殺してしまった元エリート金融マンが、凶悪犯だらけの刑務所で生き残るためギャングの幹部にまで上りつめ、そのまま犯罪の世界から抜け出せなくなってしまう。
出世作『プリズン・サバイブ』をさらにハードコアへ突き詰めたストーリー。刑罰の重さだけで罪人を一緒くたにする司法の不条理に強い疑問を投げかけつつ、極限下におけるサバイバル・サスペンスとしても重量級の出来栄え。『ゲーム・オブ・スローンズ』のニコライ・コスター=ワルドーら男優陣の渋い顔ぶれも魅力だ。
めっちゃシブいじゃないですか!
『プリズン・サバイブ』『オーバードライヴ』と「刑務所もの」にこだわるリック・ローマン・ウォー監督の代表作だろう。獄中の10年という歳月が、良き家庭人&デキるビジネスマンのイケメン男を別人のごときハードコアなワルに変えた! 表でも裏でもエリートというか、卓越した生存戦略と環境適応能力を備えているがゆえ、負のスパイラルにハマり込んでいく皮肉。ユニークな視点だと思う。
「本物」の雰囲気の中で堂々たる存在感を放つ主演のニコライ・コスター=ワルドーも凄い。だが実はやや手薄なのが刑務所サバイバルの部分で、ここに見せ場がもうちょいあれば。とはいえ息子との関係が泣きのパンチラインとなり、ラストの哀切は出色。
取り扱い注意のサバイバルドラマ
邦題から『ロックアップ』のようなB級アクション臭が伝わるが、普通の男が刑務所で生き抜くため、刑務所ギャングAB(アーリアン・ブラザーフッド)として、のし上がっていく姿を描いた、08年にリック・ローマン・ウォー監督が撮った『プリズン・サバイブ』のハードコア版だ。物語がすべて所内で展開した前作と違い、今回は“shot caller=仕切り屋(原題)”として、シャバの世界も描かれていく。主人公の生きざまはハードボイルドであり、重厚なクライム・サスペンスとても見応え十分。また、彼を追う保安官役でベンジャミン・ブラットが出演しているのは、『ブラッド・イン ブラッド・アウト』のオマージュといえる。
囚人社会を生き延びた先に、別の地獄が待っている
交通事故で死亡者を出した男が、凶悪犯たちが収監された刑務所に入れられ、そこで生き延びようとする。ここで通常の映画なら、主人公は囚人社会の掟に屈せず戦うが、本作の主人公はその掟に適応することで生き延びる。だが、そのために別の地獄に陥ることになってしまうのだ。普通の人間が止むを得ず囚人社会の仕組みに組み込まれていく、その過程の描写がリアルなのは、監督が囚人社会を2年間もリサーチしたせいだろう。
出演者はTVシリーズの人気者揃い。「ゲーム・オブ・スローンズ」のコスタ=ワルドー、「ウォーキング・デッド」「パニッシャー」のバーンサル、「バーン・ノーティス」のドノヴァンらがTVとは別の顔を見せる。