ブラック・クランズマン (2018):映画短評
ブラック・クランズマン (2018)ライター7人の平均評価: 4.3
ラジカルにしてラジカルではない、S・リーの円熟味
スパイク・リーがアメリカの政治に、そして人種差別に、こうもきっぱりとノーを突き付けたのは、『マルコムX』以来ではないか。『マルコムX』と同様に歴史の一ページを題材には取ったが、やはり同様に、現在の記録映像を用いて本作は締めくくられる。
しかし、ドラマのテイストはガラッと異なる。プラックスプロイテーションの軽妙さを取り込みつつ、黒人警官がKKKへの潜入捜査に片脚を突っ込むという奇抜な展開にユーモアを持たせた。潜入捜査官に疑惑の目を向ける敵の存在が効き、サスペンス性も十分だ。
ユダヤ人への偏見も視野に入れ、歴史を通して現代社会を語りながらエンタメを成立させている点に、リーの円熟を見た。
スパイク・リーの円熟を味わえる大傑作
白人至上主義者集団KKKのアホらしさをおちょくる展開にワクワクしっぱなし。バディ映画の態を取りつつ、アーリア人種優位を唱える人間を「これでもか」というくらいにバカにしたキャラ設定やブラックパワーの高まりを伝える時代感とスパイク・リー節フルストッロルだ! 10年前だったら多分、バリバリの社会派ドラマにしただろうが、ダーク・コメディに仕上げたあたりに監督の円熟味が感じられる。尖ったナイフの向け先をちょっと変えたのだ。大衆受けする手法で、監督が嫌悪するエージェント・オレンジの煽動で分断が進むアメリカに警鐘を鳴らしているのも素晴らしい。そしてスパイクといえばイカしたサントラで、今回も期待通り!
今、ここにある現実に直接つながっている
黒人刑事が、囮捜査のため電話で白人になりすまして白人至上主義の過激派組織KKKの一員になる、というストーリーは、フィクションだったら笑ってしまいそうな設定だが、実際にあった話。そんな話なので、テーマはシリアスなのに映画のタッチにコミカルさがあるのが妙味。笑えないのに笑っちゃうしかないような事態が、あちこちで起こる。
さらに印象的なのは、本作が、この実話のずっと前に起きたことから、この実話の後、今現実に起きていることまでを、一直線につなげて描くこと。その"現在"の映像の発するメッセージが強すぎて、映画を見終わった後でその部分が最も強烈に残ってしまうが、それが監督の意図だろう。
スパイク・リーの成熟も垣間見せる快作
このところちょっと迷走気味だったスパイク・リー、久々の快作である。舞台は’70年代半ば、主人公はコロラドスプリングス初の黒人警官。当時はブラックパワー全盛期だが、やはり地方都市だとまだシャフトやクレオパトラ・ジョーンズは映画の中だけの話だったのだろう。そんな人種差別の根強い街で、主人公はユダヤ人警官とのコンビでKKKに潜入捜査を試みる。まさに嘘みたいな実話だ。しかもノリはユーモラスにして軽妙洒脱。無知でバカで下品なレイシストたちを、徹底的にコケにして笑い飛ばす。それはトランプ時代のアメリカへ向けた皮肉でもある。こんな連中がいまだにウヨウヨしている、本当は笑っている場合じゃないんだぞと。
作品賞無念も納得する、映画作家の頂点となった、より俯瞰的目線
同じリー監督の『マルコムX』で父デンゼルが見せたカリスマ演技とは真逆。息子ジョン・デヴィッドの、いい意味での“抜けた”個性と、やはりアダム・ドライバーの、いい意味での“とぼけた”味わいが、シビアな潜入作戦に人間くささを与え、感情移入しやすく長尺も気にならず。
スパイク・リー作品としては、これまでになく俯瞰的な視点で、KKKの妻のエピソードなどに「巻き込まれる」切実さをにじませ、『國民の創生』『風と共に去りぬ』という映画史への言及、現政権への直接的批判と、語る物語以上の広がりに映画作家としての頂点を感じさせる。電話の声でだますシーンは近年の日本の詐欺も連想させ、中心のテーマ以外も見どころ充実。
エンディングのダメ押しコミで、スパイク・リー監督作
KKKに潜入捜査する黒人刑事の話と聞き、“逆『ミスター・ソウルマン』”のような展開を期待すると、やや肩透かし。基本的に電話通話のみで、実際に顔出しで潜入するのは、アダム・ドライバー演じる相棒だ。ただ、彼もユダヤ人であることで、ストーリーは面白い方向へ転がって、ユーモア満載のバディものからサスペンス・タッチのクライマックスへ。『風と共に去りぬ』や『国民の創生』の使い方も巧く、エンディングのダメ押しコミで、スパイク・リー監督作であることに間違いないが、『マルコムX』の頃の終始エネルギッシュな演出力は何処へ。しっかり中だるみもあり、135分の尺も若干長めに感じることは否定できない。
最近のスパイク・リーで最高作
キャリアの初めからずっと人種差別撤廃を訴えてきたスパイク・リーだが、これは彼の最近作の中で卓越した出来。歴史物でありながら、まさにトランプ政権のアメリカと重ねることで、これが自分たちの問題なのだという切迫感を高める。覆面でKKKのミーティングに潜り込むというミッションに挑んだ黒人刑事ロンと、実はユダヤ人である相棒フリップが直面する数々の危機に、終始、はらはらさせられっぱなし。政治的、社会的メッセージを別にしても(そんなことが可能ならばだが)、最高のスリラーだ。ロンを演じるジョン・デビッド・ワシントンが、28年前に初めてリーと組んだデンゼル・ワシントンの息子だというのも、感慨深い。