THE GUILTY/ギルティ (2018):映画短評
THE GUILTY/ギルティ (2018)ライター7人の平均評価: 4.3
脚本も役者も見事な高密度サスペンス
緊急通報オペレーターを主人公にした映画というと『ザ・コール 緊急通報指令室』を連想するが、こちらは緊急通報指令室に舞台を限定。電話を受ける主人公のみを写し出すという野心的なつくり。
したがって通話の内容によりサスペンスが進行するのだが、誘拐、暴力、さらには殺人といった状況があぶり出され、イマジネーションをグイグイ刺激してくる。
電話の向こうの緊急事態の行方に加え、刑事だった主人公が抱える問題もあぶり出され、このふたつの物語がうまく結びつき、タイトルにつながる点も巧い。これは脚本の勝利。主演を務めたJ・セーダーグレンは、揺らぐ心理をみごとに体現しているが、何より深みのある“声”が良い。
想像力を刺激されることの面白さを存分に体験できる傑作!
緊急通報オペレーターが電話一本で誘拐事件被害者の救助に当たる。似たような映画に『ザ・コール [緊急通報指令室]』という秀作があったが、本作はさらにそれを進化させ、緊急通報オペレーターの立場を観客に疑似体験させる。どういうことかというと、電話の向こう側で起きている出来事をスクリーンに一切見せず、観客もまた主人公と同じく音から得られる情報だけを手掛かりに想像を張り巡らさねばならないのだ。これがただのギミックには収まらず、人間誰しもが持つ先入観や思い込みの危うさを如実に知らしめ、予期せぬ展開の連続にただただ息を呑むことになる。巧妙に計算しつくされたプロットは見事!
ハリウッドリメイクされたら失敗する底の浅さ
ぶっちゃけ、香港リメイクされた『セルラー』や『ザ・コール 緊急通報指令室』あたりを、『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』寄りに調理しただけ。また、18年のサンダンスで観客賞を分け合った『search/サーチ』との共通点も多く(真犯人の“弱さ”まで!)、過大評価されすぎてる感アリ。ただ、視覚的にも情報過多だった『サーチ』に比べ、あまりに情報量がなく、観る者(聴く者)の想像力が試される展開と、デンマーク映画として「ドグマ95」にも近い不気味な空気感との相性が良く、そこがさらなる不安感を煽っている。そのため、ハリウッドリメイクされた場合、その魅力が一気に損なわれるだろう。
耳からの情報も雄弁なり。観客の想像力を刺激する傑作!
緊急通報をさばく緊急指令センターで繰り広げられるサスペンスなのに、電話会話でドラマがどんどん拡大していく妙味にすっかり降参。脚本も手がけたグスタフ・モーラー監督の才能、恐るべし! うれしいデビューだ。ワンシチュエーション&電話の会話だけのドラマといえば『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』もあったが、誘拐事件を絡ませた本作のほうがスリリングだし、「次に何が起きるの?」と興味も増すばかり。見るうちに気持ちはすっかり主人公アスガーと同化し、「なんとかせねばならん」とばかりに身悶えしていた。資料によると聴覚から得られる情報量は少ないらしいが、そのデータに懐疑的な目を向けたくなる傑作だった。
画面の外にあるものを想像し続けずにいられない
誘拐された女性からの緊急電話をめぐる物語は、映画なのに、最初から最後まで、観客にスクリーン上に映し出されていないものを想像し続けさせる。このコンセプトが刺激的。そのうえ、細かな音響が想像力をかき立てるので、この作品を充分に味わうという体験は、劇場でしかできないだろう。
この設定に加えて、ストーリーが巧み。緊急電話を受け取った刑事の身に起きている物語と、その電話の向こう側で起きている物語、2つの物語が同時に進行。そのどちらもが予想外の展開を見せていく。
サンダンス映画祭での好評後、さっそくジェイク・ギレホールの製作プロがリメイク権を取得、彼が主演するとのニュースも納得。
とにかく観て! 詳しい話はその後で!
テーマパークの最新アトラクションと同じく、この面白さは実際ライドしてナンボ! 20世紀型のサスペンス映画術を失効の危機に晒した鬼門アイテム、携帯電話を生命線としたデンマーク発の傑作娯楽映画。原理主義的にはヒッチコック先生も言うように、映画はまず視覚表現だが、「声と音」という副次的要素を意識的に前面化することで、ある種ラジオドラマに接近しながら斬新な話法を編み出した。
もちろん『セルラー』や『ザ・コール』といった先行例があってこそだが、すべての「発明」は積み重ねである。ワンシチュエイション、ワンアイデアを新しい映画の快楽へと展開させた意味で『十二人の怒れる男』や『激突!』の末裔でもあると思う。
息をつかせぬペースの傑作スリラー。感情面も奥深い
舞台は終始、緊急通報電話を受け付ける警察の部屋。主人公は電話の交換手で、同じ部屋にいる同僚が少し登場するものの、会話の相手はほとんどが電話の向こう。と聞くと、トム・ハーディの「オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分」を思い出すかもしれないが、ひとつの事件を追う今作は、ずっと緊張感にあふれる。職務範囲を超えてまで自分が受けた電話の事件に深入りをしてしまう中、主人公は、自身が抱える問題にもあらためて直面していくことに。息をつかせぬペースで展開しながらも、沈黙の“間”を取って主人公の感情を表現し、また現代社会の事情にも触れてみせるのは見事。新人監督の作品とは信じがたい完成度に感心させられる。