ウトヤ島、7月22日 (2018):映画短評
ウトヤ島、7月22日 (2018)ライター5人の平均評価: 3.8
見えないテロ犯の姿に怯えっぱなしの72分間
2011年にノルウェーで起きた極右青年による銃乱射事件の全容がわかり、当事者の恐怖がびんびんに伝わってくる快作。夏のキャンプを楽しむ若者たちがいきなり銃撃され、パニックに陥り、必死に逃げ惑う様子が事件と同様の72分ノーカットで映し出され、見る側にも緊張感が走る作りだ。何が怖いって、犯人がどこに潜んでいるのかわからないこと。映画を見ながら、妹を必死で探す主人公カヤの視点と同化する自分に気づき、画面に必死に目を凝らしてしまった。極限化で他人に思いやりを示せる人間の姿にホッとしたり、「そっちはダメ」と声に出さずに叫んだり、とにかく心がざわめいた。
事件発生から収束までの"時間"を体感する
実際に起きた事件を、"映画の長さ"と"撮影方法"でリアルに体感させる作品。映画の長さは、ウトヤ島での犯行発生から終息までに実際にかかった時間と同じ、72分。映像は、その島にいて事件を目の当たりにしているかのような、1カットの長回し。この撮影コンセプトの映画は他にもあるが、映画の長さが実際の犯行と同じという作品は珍しいのではないか。
72分間という長さはほとんどの長編映画より短いのに、遠くから何か異様な音が聞こえ、人々が走っていく姿は見えるが、何か起きているのかまったく分からないという状態で過ごす72分間は、ものすごく長い。それを体感させてくれる。
「カメ止め」2倍のワンカットに賛否あるかもしれないが…
『カメラを止めるな!』の37分ワンカットに対し、こちらは約2倍の72分。島で銃撃が始まり、犯人確保までの72分を一人の少女の行動に限定すれば、当然、ただじっと潜んでいたり、仲間と話したりして、はっきり言って観ていて「冗長」な部分もある。しかし、ある重要なシーンで、そのリアルな時間の感覚が信じがたい切なさを喚起したりする。そしてダラダラと続く時間が、いかに貴重だったかという痛烈な皮肉も浮上する。
当事国であるノルウェー人として、事件からわずか7年後の映画化で監督が選んだこの手法には、生存者や遺族へのギリギリの配慮と覚悟が感じられる。主人公も含め、演技未経験という若者キャストの健闘も称賛したい。
ノルウェー人監督の心意気は認めたい
自国で起こった衝撃的かつ悲惨な事件をリアルタイム72分間、ワンカットで収めるという、監督の心意気は認めたいし、何者かに襲われるかもしれない不穏な空気感も醸し出している。ただ、技術の発展に伴い、ワンカット映画が量産されるご時世、ドラマ性や音楽を排除する程度では、やはりモノ足りない。演出も一本調子のためか、中盤からの息切れ感は否めず、最終的にカットを割った方が良かったと思えてくる。ちなみに、同事件を『ユナイテッド93』のポール・グリーングラス監督が撮った『7月22日』は、ドラマ性・エンタメ性・外国人視点と、本作にはない要素が詰まっており、観比べるのも一興だ。
無差別テロの恐怖と混乱をワンカット・リアルタイムで描く力作
‘11年の夏、ノルウェーで起きた連続テロ事件のニュースには、まさかあの平和な福祉国家で!との驚きを禁じ得なかった。まずは首都オスロで爆破テロが発生して8人が死亡。その約2時間後、サマーキャンプに参加した大勢の若者が集うウトヤ島で、極右青年が銃を無差別に乱射して69人の若い命が散った。本作は、そのウトヤ島での事件をワンカット・リアルタイムで再現する。何が起きているのか分からず、突然の銃声に慄き逃げ惑う10代の若者たち。カメラは一人の少女にフォーカスし、平和な日常から悪夢のような非日常へと突き落とされた人間の恐怖と混乱と絶望、そして生への渇望を生々しいほどの臨場感で捉える。これは圧巻。