アメリカン・アニマルズ (2018):映画短評
アメリカン・アニマルズ (2018)ライター5人の平均評価: 4
自ら凡人であることを証明してしまった若者たちの悲哀
図書館から高価な希少本を盗み出したものの、あえなくお縄となってしまった4人の大学生。アメリカで実際に起きた事件を映画化した作品だが、本人たちや関係者のインタビュー映像を差し込んでいくドキュドラマ的な演出がユニークで、『羅生門』的な視点からの洞察を加えつつ小気味良いテンポも生み出している。人間誰しも少なからず、自分は特別だと思いたいもの。若いうちはなおさらで、その浅はかな承認欲求が犯罪行為に結びついてしまう安直さは、SNSに溢れる数々の炎上動画と相通ずるものがある。こうした若者をバカにするのは簡単だが、しかし身をていして凡人であることを証明してしまった彼らの悲哀には、一抹の同情を禁じ得ない。
若気の至り、大反省会
『オーシャンズ11』に憧れ、『レザボア・ドッグズ』よろしくお互いを色で呼び合って、犯行に挑む大学生4人組。後先を考えない若気の至り感は、わが国の飲食店やコンビニでの悪ふざけ動画にも近いノリでもある。だが、服役していた事件の当事者(妙に存在感アリ!)のインタビューが挿入されることで、真相は“藪の中”な反省会が開幕。この構成はかなり斬新といえるが、冒頭こそ『ベイビー・ドライバー』にも近い疾走感を感じさせるだけに、まさかの失速感&喪失感もあり、当事者と同じ「こんなはずじゃなかった!」感は強い。そんなわけで、犯罪映画としては『バッド・ジーニアス』に遠く及ばず。
アメリカにはこういう生き物が棲息している
映画は、主人公たちの行動を否定も肯定もしない。ただ、アメリカにはこういう生き物が棲息しています、というスケッチを提示する。それは、主人公たちが盗もうとする、19世紀の鳥の博物画集「アメリカの鳥類」と同じ。だから本作のポスターで、登場人物たちの頭部は鳥類になっている。
実際の当事者本人たち4人も映画の冒頭から登場して事件を語るが、映画は、本人たちの映像よりも、博物画よりも、よりリアルで精密に、これらの生き物たちの体温や鼓動の変化までもをも写し取ろうとする。計画中の高揚感、どこか非現実的な感覚、実行日が近づくにつれて高まる緊張感と恐怖、実行後の罪悪感と不安、そのすべてが伝わってくる。
若さが生んだ悲劇を最高に効果的な形で語る
集団でお宝を盗もうとする“ハイスト”のジャンルは、ハリウッドの定番。しかし、今作はひと味もふた味も違う。映画は役者の演技で展開するが、途中何度か本人たちを登場させ、それぞれに当時を振り返ってもらうという、ドキュメンタリーを混ぜたスタイルが、まずユニーク。その手法は、さらなるリアルさと、語る人によって同じ出来事が違ってくる「羅生門」的ニュアンスを与える。盗難のシーンでは、ど素人らしい考えの浅さ、優柔不断さ、世間知らずさが強調され、スリルと悲劇的気分を高める。音楽の使い方も効果的ならキャストの演技も最高。最後まで強烈に引き込まれる優れた一作だ。
「浅はかさ」について真面目に考えよう!
近いものを挙げるなら『ブリングリング』か。04年の大学生4人組による珍犯罪が題材だが、完全に不謹慎動画などのSNS炎上の心理背景に通じ、やたらタイムリー。バカな若者ですね、というコメンテーターの切り捨て発言の向こう側を丹念に掘った映画とも言えるが、同情でも断罪でもなく解析に徹した視座が絶妙。
なんと事件の当事者たちも登場。「本物」の顔は実に雄弁で、特にウォーレンの出オチ感が凄い。強盗計画の参照先となる『レザボア・ドッグス』等のギャング映画を矮小化した例でもあり、フィクションの現在についても考えさせられる。ダーウィン『種の起源』より引いたタイトルはオーデュボン『アメリカの鳥類』からの連想かな。