メランコリック (2018):映画短評
メランコリック (2018)ライター5人の平均評価: 4.2
“ポスト『カメ止め』”になりえるのか?
“銭湯で死体処理”というアイデアは、確かに面白い。とはいえ、ゴア描写を期待していなくても、解体作業のアッサリ感はリアリティに欠け、それが巻き込まれ型サスペンスとしての怖さや、ブラックコメディとしての笑いに繋がらない。本作の持ち味は、かなり殺伐した展開ながら、揚げ物好きな主人公の両親の描写に代表される、ハートフル感だろう。ほかにも、300万円の製作費や相棒を演じる磯崎義知ら、無名ながらも魅力的なキャストなど、『カメ止め』との共通点がいくつか見られ、そこをフックに同様の中毒者を生んでいる動きも理解できる。にしても、あまりに演出が単調すぎて、緩急がなさすぎる。
身近にあるかもしれない恐怖
盲点だった。
『OUT』や『冷たい熱帯魚』でも描かれているように、狭い浴室で死体を解体するのが日本映画のお約束。
そうか、銭湯があったじゃないか!
焼却設備も併せ持っており、なんと好都合なことか(あくまで映画の設定としてです)。
このアイデアが実に効果的。
私たちの生活に密着した場所で、東大卒なのにニートという主人公が犯罪にハマっていく過程は昨今の事件をも彷彿とさせ、より身近に起こりうる恐怖を感じさせる。
エンタメに社会性をはらませることが不得意な日本映画界において、これは期待の新鋭の誕生だ。
唯一ひっかるのが音楽。低音度で進む展開おいて突如流れるキャッチーな曲に、一気に現実に引き戻された。
この夏、最も注目すべき日本映画はこれ!
いやはや、まるで想定外の傑作である。東大を出ても人生に目標を見いだせないニート男子が、なんとなく地元の銭湯でアルバイトを始めたところ、そこは夜な夜な人殺しが行われるヤクザの屠殺場だった!というお話。いかにもヤバい雰囲気を漂わせた映像とバイオレントで血生臭い設定。さては園子温とか三池崇史のエピゴーネンか…?と思いながら見ていると、意外にも愛と友情に満ち溢れた痛快&爽快な青春ドラマへと昇華されていて驚く。悪い大人たちが若い世代を搾取し、明日への希望を見出しづらい現代日本社会に生きる若者たちへのエールとしても秀逸。この夏、最も注目すべき日本映画として断然おススメしたい。
今年は心から面白いと感じる日本映画が増えた。そう実感する一本
死体をこっそり処分するのに最適な場所が「風呂屋」というアイデアに、まず目からウロコ。毎晩のように「仕事」があるのはやや非現実だけれど、そのありえなさを映画としての「作り物」な面白さに変換する、語り口の巧さ。非現実感と日常のシンクロは、一歩間違えたらポカーンとなる危険もあるが、ブラックユーモア、とぼけた笑いの匙加減、アクションの見せ方など、映画としての基本ルールを守っているので、前半、やや乗り切れない人も、中盤からラストの流れに否が応でも巻き込まれるはず。
主演を務めるプロデューサーの皆川暢二が、実物よりはるかに「イケてない」男に変貌している姿に、一時のブラピを思い出した……ってのは誉めすぎ?
正攻法のメソッド×3=新しい作り方
今年は各方面がポスト『カメ止め』の文脈を探っていると思うが、本作はモロそのラインに見えつつ、実のところ肝は明快なサプライズではなく不思議な噛み応えである。銭湯や殺し屋のモチーフは『鍵泥棒のメソッド』に共通するが、凝ったギミックは使っていない。巻き込まれサスペンスをボディにし、あとは日常世界の表と裏を丁寧に、何回も反転させてフィクションを紡いでいる。
興味深いのは監督・脚本、主演・プロデューサー、準主演・アクション演出の三人ユニットの横並びで作っていること。ひとりの世界観で統制するのではなく、タイプの異なる作者が複数いるユニークさ。内部のピラミッド構造を崩す民主化体制、これは発見かもしれない。