男と女 人生最良の日々 (2019):映画短評
男と女 人生最良の日々 (2019)ライター3人の平均評価: 4.3
爆走する「やすらぎの郷」!
“恍惚の人”ながら、毎日のように介護士に「俺に抱かれる気になったか?」と口説くジャン・ルイと、彼の息子に頼まれ、あまり気乗りしないプチどっきりを仕掛けるアンヌ。まるで「やすらぎの郷」の石坂浩二と浅丘ルリ子を観ていたようなドキドキ感とほのぼの感が同居する。その後、『春にして君を想う』のようなファンタジックな逃亡劇となるが、過去作の名場面が挟まれたロードムービー展開が妙にRPGっぽく、80歳を超えてもクロード・ルルーシュ監督は意欲的だ。老いていくことの残酷さを描きながらも、愛とノスタルジーに溢れた人生賛歌。ダバダバな音楽に加え、“イタリアの宝石”の登場など、耳にも目にも優しい一本である。
甦る遠い日の記憶に万感の思いがこみ上げる
不朽の名作『男と女』から半世紀以上、クロード・ルルーシュ監督自身によるまさかの続編だ。痴呆症で記憶を失いかけたジャン=ルイのもとへ、かつての最愛の女性アンヌが訪れる。演じるのは90歳目前のジャン=ルイ・トラティニャンとアヌーク・エーメ。彼らの息子と娘も旧作と同じ配役。遠い日の想い出を手繰り寄せるため、懐かしい場所の数々を訪れていく2人。そこに映し出されるのは紛れもない人生そのものだ。あふれ出す郷愁とこみ上げる万感の思い。それでいて、ここから始まる彼らの新たな関係性にささやかな希望が宿る。この優しさ、この穏やかさこそが時を経て名匠の達した境地。失敗作『男と女Ⅱ』をなかったことにしたのも正解だ。
寅さんとリリー?
スクリーンに定着した過去を、約50年後の「今」が掬い上げる。呼び戻されるのは1966年の『男と女』、そして傑作短編『ランデヴー』! “プレイボーイと美女と車”の最近めったにお目に掛かれないロマンティシズムの世界が、うたかたの夢のように浮かび上がる。
『お帰り 寅さん』と同様に「記録」としての映画を「記憶」に再導入する試み。映画の中の人生にリアルな歳月が積み重なる。使い回しと揶揄するなかれ。ルルーシュが言うように「特殊メイクはなし、若き日の主人公達を演じる役者もいらない」。すべて「本物」の回想だ。この「心を揺さぶるメタドラマ」は、ひとつの名作=奇跡を大切にしてきた者にのみ許される特権だろう。