愛なき森で叫べ (2019):映画短評
愛なき森で叫べ (2019)ライター5人の平均評価: 3.8
過剰な園ワールドに「ベニスに死す」「蛹化の女」の美しき効果
シチュエーションや演出など、園子温ワールドの見本市的贅沢さ。残虐シーンや、周囲を洗脳する特異キャラ、「愛のむきだし」感、死に誘われる少女たち、そして観る者をあざわらうような「おふざけ」……と、溢れまくる監督のテイストで、その分、各要素のインパクトは平均に薄れるものの、映画内映画の撮影のムードなど、監督が嬉々として撮っているのが伝わってきて妙に微笑ましい。
題材となった事件における洗脳のリアリティを、今作に求めるのは筋違い。「ベニスに死す」や戸川純の「蛹化の女」といった曲が事件を過剰に美しく装飾し、全編に鼓動する「ロミオとジュリエット」のときめきと失望が、絵空事のような世界をピュアに浄化する。
究極なまでに振り切れた、振り子
園子温監督による園子温監督的エッセンスが徹底的に濃縮された作品。実際い起きた事件を触媒にしていますが、園子温監督の映画としか言いようがない作品でしかありません。
海外の映画祭で常連になっているような日本人監督がこういう形で新作を発表するのが一つの定番になっていくのかもしれませんね。
『ジョーカー』『悪の華』と同じ時期に徹底した暗黒譚が揃ったのも偶然ではないでしょう。
「全裸監督」に続く、オトナのエンタメ
Netflixが「全裸監督」に続いて放つオトナのエンタメだが、こちらはPFF時代の園子温監督を思い起こさせる原点回帰にして、(『自殺サークル』以降の)ベスト盤な151分一本勝負! 百合な雰囲気漂う演劇少女が戸川純の「蛹化の女」を歌い踊る「80年代篇」から一転、椎名桔平演じるサイコパスな詐欺師の笑えるほどの胡散臭さが連合赤軍化していく「90年代篇」へ突入。そんななか、悲劇の引きこもりヒロインを演じる鎌滝えりが、「全裸監督」の森田望智にも近い鳥肌モノの女優魂を魅せる。主人公がコロコロ変わるヤリたい放題な状況に困惑してると、満島真之介演じるボンクラ同様、“監禁状態”になっている恐れもアリ!?
"イヤなもの見たさ"が止まらない
これは"怖いモノ見たさ"に似ているがちょっと違う"イヤなモノ見たさ"なのではないか、イヤなヤツしか登場せず、事態は思った通りにどんどんイヤな方向に進むのに、なぜか先を見るのが止められないという、奇妙なパワーに引きずり込まれてしまう。
詐欺や洗脳や暴力のドラマは派手で血糊も大量だが、それとは別に、微妙で独特な味が堪能できるのが、感情過多かつ過敏な女子高校生集団とその後の彼女たちの描き方。原曲ファンが見たら激怒しそうな名曲「蛹化の女」の使い方を筆頭に、この映画が"女子高校生的なるもの"に向ける眼差しの"ああ鬱陶しい"と"ああ麗しい"が交互に入れ替わり入り混じる感じが味わいが深い。
恐らく園子温史上最も園子温テイストの濃厚な問題作
劇中でもプレス資料でも明確にはされないが、どう見ても元ネタは‘02年に発覚した北九州監禁殺人事件。その実話を物語のベースにしつつ、『自殺サークル』から『冷たい熱帯魚』、『地獄でなぜ悪い』に至るまで、過去代表作のセルフオマージュを随所に交えながら大胆に再構築された、まさしく園子温テイスト全開の問題作に仕上がっている。甘い言葉で巧みに他人を騙し、暴力とセックスで洗脳・コントロールしていく詐欺師と、暴走する欲望と狂気の果てにお互い殺しあっていく被害者たち。役者陣のハイテンションな演技バトルとも相まって、2時間半の長尺を一気に駆け抜けていく。中でも元宝塚・真飛聖のぶっ壊れっぷりは圧巻だ。