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リトル・ジョー (2019):映画短評

リトル・ジョー (2019)

2020年7月17日公開 105分

リトル・ジョー
(C) COOP99 FILMPRODUKTION GMBH / LITTLE JOE PRODUCTIONS LTD / ESSENTIAL FILMPRODUKTION GMBH / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE 2019

ライター5人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 3.6

山縣みどり

自然を意図的に変えてしまうと何が起こる?

山縣みどり 評価: ★★★★★ ★★★★★

幸福感をもたらす芳香を発する植物を開発した植物化学者アリスが遭遇する奇妙な出来事が不気味さを増幅させ、現代社会に警鐘を鳴らす。台詞やサブストーリーなどでメンションせずとも、監督が遺伝子組み換えの是非や働くママの罪悪感、精神分析に頼りがちな現代人の弱点などに言及しているのは明白で、ボディスナッチャーものとしては奥深い! J・ハウスナー監督作は、幸福と妬みはワンセットと考えさせた『ルルドの泉で』しか見ていないが、本作はカラーパレットや音楽で物語に躍動感を持たせているのが独特と感じた。特に雅楽を思わせる伊藤貞司の音楽が印象的だ。

この短評にはネタバレを含んでいます
猿渡 由紀

神の行為を真似した人間が払うツケ

猿渡 由紀 評価: ★★★★★ ★★★★★

奇妙で、異様で、スマート。バイオレンスはないのに、すべての要素が功を奏して、とても怖い。まず、匂いでハッピーな気分にしてくれる新種の花というコンセプトが、なんでもすぐ解決したい今の風潮をとらえている。そして、遺伝子操作で開発されたその花には生殖力がないのだ。すなわち自然の摂理に完全に反しているわけで、それが人間が報復される地盤を作るのである。その花が彼岸花のように見えることや、太鼓と笛で盛り上げる音楽は、とりわけ日本人観客の心をざわつかせるはず。カンヌで女優賞を受賞したエミリー・ビーチャムはもちろん、花の影響で微妙に変わった様子を演じる彼女の息子や、その女友達役の若い子たちもうまい。

この短評にはネタバレを含んでいます
くれい響

世にも奇妙な“植物版『ボディ・スナッチャーズ』”

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

過去にアシスタントも務めた同郷のハネケ監督の影響も強い、ジェシカ・ハウスナー監督作。『ルルドの泉で』で見られた鋭い人物描写もありつつ、色彩鮮やかなながら、どこか無機質な映像に目を奪われる。さらに、和を基調とした伊藤貞司のサウンドが流れることで「ウルトラQ」感が増し、エンディング曲で連呼される「Happiness Business」に込められたメッセージにニヤリ。世にも奇妙な感染スリラーは、ベン・ウィショーの見せ場もしっかりある“静寂と狂気が同居する『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』”<<<“植物版『ボディ・スナッチャーズ』”。ウィズコロナ時代に観ることで、さらに感慨深い作品となった。

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斉藤 博昭

花粉が人間の心を操る、この不思議テイストと胸騒ぎは快感!?

斉藤 博昭 評価: ★★★★★ ★★★★★

美しい花を栽培する、真っ白で整然とした研究施設。シングルマザーと息子、同僚のもどかしい人間関係…と、つかみの前半こそ、スタイリッシュな映像+大人のドラマを観ている心地良さを与えつつ、次第に何か恐ろしいものが侵食してくる感覚。この「じわじわ来る」展開と、ホラーやSFに近いドラマの融合が妙に快感。

冒頭から親子が寿司を食べてるが、気づけば音楽は「雅楽」「歌舞伎風」と日本人作曲家によるもの。これも、じわじわな恐怖と異様にマッチ。

ウイルスを思わせる花粉や、同調圧力など今の社会とリンクするテーマも感じられるけど、シンプルに不思議映画と受け止めて、その世界に入り込めば、めくるめく陶酔を味わえるはず!

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平沢 薫

美しい花が現在ならではの問いを投げかけてくる

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 まさに現在の状況下で見るのに相応しいストーリー。"感染"を描くドラマでもある。そして、人間が自然に変更を加えたとき、それによって生じる反動が描かれる。そのうえで、より大きな"生命とは何か"を描く物語でもある。生命体が存続することを最優先したとき、損なわれるものは何なのか。また、個体が繁殖しないことを選んだとき、種の存続とは無関係になったその個体は、個体自身しか尊重しなくなるのか。そうした現在ならではの問いの数々を投げかけてくる。
 モチーフが植物なので、世界は常に静止していて、しかし色彩は明るく鮮やか。音が発生しない静寂の中で、日本の雅楽やそれに似た音楽が緊迫感を高め続ける。

この短評にはネタバレを含んでいます
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