21ブリッジ (2019):映画短評
21ブリッジ (2019)ライター8人の平均評価: 3.6
追われる側の背景をもっと深堀りすべきだったかも
2人組の強盗犯が8人の警官を射殺して逃亡したことから、NY市警はマンハッタン島と外部をつなぐ21の橋を封鎖。正義のためなら手段を選ばないエリート刑事チャドウィック・ボーズマンが犯人たちを執拗に追いつめるものの、やがて事件の裏に隠された意外な真相が浮かび上がっていく…という筋書きなのだが、しかし「まあ、恐らくそういうことなんだろうな」と思っていたら本当にその通りだった結末を含め、残念ながら脚本は予定調和の域を出るものではない。追われる側の犯人(実は恵まれない境遇の退役軍人)の背景をもっと丹念に掘り下げれば、「正義とはなんぞや」というテーマがしっかりと浮き彫りになったようにも思う。
警察も犯人も人間。白黒分かれないところが良い
ネタバレせずにストーリーの良さを書くのが難しく、そこがもどかしい。ただ、タイムリミットのあるアクションスリラーでエンタメ性たっぷりながら、キャラクターがしっかりと書かれていて明白に白黒分かれないのが良いと言っておこう。警察も、犯人も、所詮人間なのだ。アメリカに生まれ育った黒人男性のチャドウィック・ボーズマンは警察に複雑な思いを抱いていたが、だからこそ彼らを人として知りたいと今作に挑んだ。プロデューサーとして彼の意見は今作のあちこちに反映されており、今作の良さはすなわちボーズマンの良さともいえる。闘病中だったとはとても思えない彼のアクションシーンにも胸を打たれる。
硬派ボーズマン、最後のハードボイルド
正義と悪、理想と現実、権力者と下っ端……そんな70年代的社会派アクションのテイストを漂わせながら、21世紀の犯罪の構図を浮かび上がらせた意欲作。
父親の跡を継いで刑事になった主人公の一本気なところがキャラ的な魅力として機能し、ラスボスへとたどり着く道程を盛り上げる。一方では一本気では太刀打ちできない通じない悪の存在を浮かび上がらせる硬派なつくり。
主演とともに製作を兼任した故C・ボーズマンはブラックパンサー的なキャラを活かし、この役に没入。人間のピュアネスを表現できる彼が演じたからこその魅力もあり、そんな個性に触れると、改めて早逝が惜しまれる。
チャドのカリスマ性が生きるクライムアクション
B級の香りもするが、満足度の高い犯罪ドラマ。主人公デイヴィスが悲劇的な過去ゆえに正義のためなら犯人射殺も厭わず、権力とも無縁な刑事という設定がいい。私立探偵シャフトや刑事ルーサーを彷彿させるキャラで、C・ボーズマンのカリスマ性が生きる。しかし犯人側にも同情の余地がある上、演じるのが主演級スターなので、単なる勧善懲悪で終わらない気配が濃厚。さらにNYPDとFBIの縄張り争いなども絡み、事態は二転三転。TV界のベテランであるB・カーク監督は、観客の心を掴む演出が上手い。冒頭の強盗シーンから「何かおかしい」と思わせるし、デイヴィスの頭に浮かび始める疑念を見る側が同時に感じる仕掛けとなっている。
70~80年代ポリス・アクションへのオマージュに高まる!
真夜中を駆け抜ける展開のなか、タイトル通りマンハッタンを繋ぐ21の橋を封鎖するだけでなく、カーチェイスや地下鉄での攻防戦、途中から読めるドンデン返しと、確かに既視感がある。とはいえ、これだけの要素を99分の尺に盛り込んだサービス精神は、70~80年代のポリス・アクションへのオマージュも強く感じられるだけに高まらないわけがない。チャドウィック・ボーズマンだけでなく、相棒役のシエナ・ミラーら、魅力的なキャストや、『コラテラル』などのベテラン、ポール・キャメロンの撮影に助けられた感もあるが、これまでTVシリーズで鍛えられてきたブライアン・カーク監督は、今後重宝されていくに違いない!
王道の世界に息づく、惜しまれて逝った才能の魂の瞬間
クライムサスペンスにおける多くの要素が期待どおりの仕上がり。冒頭の事件の衝撃と緊迫感、背後に潜む陰謀の予感、犯人たちに共感してしまう部分…など既視感はあるものの、このジャンルの王道を行く安心感が上回る。一瞬にしてマンハッタンを封鎖するという、やや無理やりな戦略も、作品のノンストップな勢いに乗ってすんなり納得。
まだ死の間際ではなかったチャドウィックは、アクションのキレが申し分ないが、何ヶ所か相手と対峙するシーンで、複雑な心情の変化を目を充血させて渾身演技。観る者を本能的に感動させる“選ばれた才能”を実感させる。
没個性で、いつも印象が薄いシエナ・ミラーは、その特徴が逆に生かされてる好パターン。
大都会の夜、影になった場所は底無しに暗い
犯人を追い詰めるため、マンハッタンにある21の橋をすベて閉鎖して、マンハッタン島中を警官で埋め尽くすーーという設定だけで痛快クライム・アクション映画になり得るところを、この映画は別の方向へと進む。警官による容疑者への暴力が問題になり、ブラック・ライブズ・マター運動が勢いを増しているという現実を色濃く反映した人間ドラマになっていくのだ。主人公を演じるのが『ブラックパンサー』でブラックパワーの誇りを体現したチャドウィック・ボーズマンであり、遺作ではないものの最後の主演作になったことも感慨深い。そうした物語に相応しく、この大都会の夜は常に無数の電飾が輝いているのに、影の部分が底無しに暗い。
もっと見たかった
ダーティ・ハリーやマイケル・マン作品を彷彿とさせるクライム作品、ポリスアクションの秀作。
本作が遺作となったチャドウィック・ボーズマンのカリスマ性と魅力がギュッと詰まっている作品です。
主演するだけでなく『アベンジャーズ』を多く手掛けたロッソ兄弟と共にプロデューサーとしても作品に参画するほどのほれ込んだ企画と言うことも熱くなります。
マンハッタンを舞台にしたアンドレイ・デイビス刑事シリーズはまだまだ見たかったなぁ…。無念。