そして、バトンは渡された (2021):映画短評
そして、バトンは渡された (2021)ライター4人の平均評価: 3.5
キャストの芝居から感じる原作愛
永野芽郁演じるヒロインが、あまりに良い子すぎることと、かなりギリのラインを攻めた石原さとみの好演もあり、上映中は微塵も感じさせないが、じつはかなりの“親ガチャ映画”。誰一人、悪人キャラが登場しないことも驚きだが、萩原みのりが未だに意地悪な同級生役を演じてることに、さらに驚き。とにかくキャストの芝居から原作愛を感じさせるが、原作ファンなら終盤“真実”が明らかになる展開を改変したことに首を傾げてしまうだろう。2つの家族のエピソードを同時に描くネタバレ厳禁の構成に関しても、勘が良ければ、かなり早い段階で気づくはず。結果、前田哲監督作としては、『こんな夜更けにバナナかよ』には及ばず。
血が繋がらなくても、苗字が違っても家族の絆に変わりはない
苗字が4回も変わって、今は血の繋がりのない義理の父親と2人で暮らす女子高生。事情あって義理の娘を一人で育てるシングルマザー。この2つの物語を並行して描きつつ、やがて両者が意外な形でひとつに結びついていく。「なるほど!」と「ちょっとズルくね?」が半々の筋書きではあるものの、しかし家族の形も親子の愛情も血の繋がりが全てではないし、ましてや苗字が違ったって家族の絆に変わりはないことを、実に巧妙な語り口で雄弁かつ鮮やかに描いていく脚本がとてもいい。いかにして子供を守り育てるのかという大人の責任、社会の責任についても考えさせられる。
分断の世で、性善説の夢を見る
物語の構造はトリッキーな変化球だが、描かれるヒューマニズムはストレート。前に進もうとするヒロインたちの姿が、それを下支えする。
母性と悪女ぶりが見え隠れする石原さとみの巧演はもちろん、子役の稲垣来泉の純朴な個性も光る。そして何より、主演を務めた永野芽郁だ。悪意に染まることなく浮遊するキャラは『地獄の花園』のヒロイン像とはある意味真逆で、演技の幅を広げてみせた。
人物描写は性善説に寄り過ぎの感もあり、そこは評価が分かれるだろう。が、分断が加速する世の中で、こんな世界があっていいと思わせるのも本作の魅力だ。
技巧派ヒューマンドラマ
ミステリーやサスペンスにありがちなスタイルをヒューマンドラマに取り込んだ一作。
一度見て、真実を知った上で、もう一度見ると、全ての出来事が全く違った意味を持つ仕組みになっています。
石原さとみ演じる梨花の行動について、感情移入できるかできないか賛否両論があるかと思いますが、物語全体を成り立たせる大きな原動力になっていると言っていいでしょう。そして、永野芽郁の好演、こういうキャラクターに関してはお手の物といった感じで、頼もしさすら感じます。二人に大きくかかわる3人の男性、田中圭、大森南朋、市村正親も適材適所で巧く機能していました。