MINAMATA-ミナマタ- (2020):映画短評
MINAMATA-ミナマタ- (2020)ライター5人の平均評価: 3.8
「カウンター・カルチャー伝道師」としてのジョニデ先生
原一男の『水俣曼陀羅』も控える現在、土本典昭の『水俣』フィルムが真摯な形で使用される「ハリウッドのスター映画」が堂々立ち上がってきた事に素直に感動した。製作も兼ねるジョニー・デップは見事ユージーン・スミスになりきっており、ハンター・S・トンプソンの際と同様、カウンター・カルチャーマニアとしての良さが活きている。冒頭に流れるテン・イヤーズ・アフターも彼の趣味っぽい。
熊本はセルビアやモンテネグロで撮影された。まさにハリウッド映画の流儀とは「場所も演技する」――フィクションの仮構力こそを展開するものだろう。バルカン半島を1970年代の水俣にしたのは、もちろん日本の俳優陣の掛け値無しの素晴らしさ!
気骨に支えられた今見るべき力作
訴えるべきことを訴える1970年代の社会派映画のよう。デップが主演だけでなく製作にも名乗りを上げたのは、その気骨ゆえ? そう思わずにいられない力作。
最初は嫌々だった主人公が、現地の惨状を目にして言葉を失い、企業の隠蔽に怒り、能動的に行動するようになる。そんな人間ドラマはもちろん、水俣で起きたことの記録としても力強さが宿る。
とはいえ、息苦しい映画というわけではなく、主人公が歴史的な写真を撮るクライマックスや、彼が病気の子どもに歌を歌ってやる場面など、ハッとするほど美しい瞬間がいくつもある。アートに造詣の深い監督の才腕も、日本人俳優たちの好演も込みで、必見!
水俣病を忘れてはいけないと再認識しました
水俣病を世界に知らしめた写真家ユージン・スミス&アイリーン夫妻の物語だが、想像もできなかった公害被害に遭った人々の姿をリアルに伝えた製作陣の姿勢に感動した。胎児性水俣病の娘に愛を注ぐ母親やカメラに興味を抱く青年といった被害者の日常はスミスの温かい視線そのまま。また被害を訴える地元住民と無責任としか思えない企業側の攻防も迫力たっぷりに描かれており、報道写真家としての夫妻の理念を受け継いだ実話映画になっている。アイリーン役の美波や公害と戦う活動家を演じた真田広之はじめとする日本人キャストの真摯な演技が素晴らしく、水俣病を知らない人でも本作を見れば当事者へ思いをはせるだろう。
強いメッセージと誠意が感じられる
半世紀前に起こり、今もまだ終わっていない水俣病の問題を伝えようという正しい姿勢が感じられる作品。エンドクレジットでは、このほかにも世界ではいかに多くの人災が起き続けてきたのかが示され、強いメッセージが送られる。映画にドラマチックさをプラスするために加えた多少の変更や演出の中には、やや作られた感があるものも混じるが、奥にあるその精神に揺らぎはない。主人公はアメリカ人写真家ユージーン・スミスながら、行動を起こし、勝利をつかんだのは地元の人たちであることが明確に描かれ、いわゆる「白人の救世主」パターンにならないようにもしている。デップの演技は近年で最高に良いかも。
アメリカ映画だから水俣を直視できたのかも…と複雑な思いも
日本以外で撮影し、しかも70年代の日本を再現するというハードル高いチャレンジだが、違和感は最小限。現地・水俣を自分の目で確認し、関係者に真摯に話を聞いた監督の誠実さが全編を貫いている印象。
患者となった人々からも目を背けないので、心が痛む描写がいくつもある。われわれ観客もNYから来たユージン・スミスの視線となり、悲劇の重さを実感させるという意味で、作品のアプローチは成功した。いつになく老けメイクのジョニーの演技も、役と一体化。真実を伝える責任感を静かに深くにじませる。
現在とまったく異なるジャーナリズム、水俣以外の現実と環境問題など、今を生きる一人の人間として知っておくべきことが詰まった力作。