マトリックス レザレクションズ (2021):映画短評
マトリックス レザレクションズ (2021)ライター6人の平均評価: 3.5
伝説のパイセン、終始戸惑う
ゲーム業界が舞台のメタ・フィクション的な展開で幕を開けるなか、ムリヤリOB会に参加することになった伝説のパイセン・ネオ兄さんが、後輩から浴びせられるカリスマ視や仲間やライバルの風貌の変わり具合に戸惑いまくる! “二代目・特攻隊長”な新キャラ・バッグスの活躍は目立つものの、オトナの恋のライバルとしてチャド・スタエルスキ監督が登場するなど、前3部作を踏まえたファン以外はポカーンな楽屋落ち多数。しかも、ゾンビ映画と化すクライマックスなど、視覚的な新しさはほぼなく、作品ごとに進化するクリストファー・ノーラン監督作や『ワイスピ』シリーズと比べると、どこか時代が止まってる感は否定できない。
ラナ・ウォシャウスキー監督の「私の物語」
衝撃を狙わず、愚直なほどの正直さに徹した内容に筆者は好感を持った。ネオことトーマス・アンダーソンが、かつて伝説的なソフト『マトリックス』を発表したゲームデザイナーとの設定からしてパロディックな構造だが、自作の呪縛に苛まれている点など、メタレベルな視座からの監督の自己言及性が全編を覆う。
ティファニーという別名を与えられたトリニティーを巡って『めまい』式展開を見せつつ、「救世主の再定義」との主題に沿って上がってくるのはジェンダー論的な更新だ。それは監督が「本当に語りたかったこと」の20年越しの実現かもしれない。そしてシリーズ恒例、日本アニメのオマージュ大会は『鬼滅の刃 無限列車編』まで伸びた!
革新作品の復活という意味で、とりあえず自分の目で確認を
前3作の設定の再確認は一苦労だが、むしろすべて忘れて没入する方がいいかも。基本的に観る者を混乱させる設定であり、主人公の目線でそのカオスに巻き込まれたい。つまり「マトリックス」初心者も気後れしなくて良いかと。そう考えれば、登場人物が状況をじっくり説明する描写が逆に冗長に感じる。多少の混乱をスルーしても、しっかり伝わるのが、ネオとトリニティーのラブストーリー。そこを軸にテンション持続で観たい。
「マトリックスがゲームとして存在する世界」という遊び心は、現実と仮想が交錯する本作のテーマを表しつつ、楽屋落ちユーモアに賛否分かれるのでは?
前3作の映像が重ねられると、特に1作目の革新性を再認識。
トリロジーをしっかり継承した劇的“復活”劇
1作目の続きとの噂とは裏腹に、完全にトリロジーの続編。前3作のメタフィクション化にニヤリとしつつ、“自分は何者なのか?”というテーマの継承に嬉しくなる。
1作目の展開をなぞった作りで、前半のネオの苦悩の描写に時間を割き、きっちりラブストーリーに持って行く。もはや電話回線の時代ではない“通信”や、人類とマシンが共存する“現実”など、ディテールの凝り具合も面白く、前3作と同様にリピートして見たくなる。
ネオやトリニティの覚醒が後半に引っ張られる分、新キャラ、バッグスのアクティブな活躍が光る。続編が作られるなら、確固たる意志を持った彼女のアノマリー的覚醒を期待したい。
redefinitionー再定義ー
約18年ぶりのシリーズ4作目ですが、何とも不思議な立ち位置の作品ですね。
『マトリックス』というものを『マトリックス』というものを使って再定義・再構築した映画と言えばいいのでしょうか?
セルフリメイクやセルフカバーとも違う、新しい映画へ取り組み方を見ることができました。
過去のトリロジーが非常にメタ的に使われていたりするなど、面白い演出が続きます。
ただ、そういう驚かされる作られ方ではありますが、映画はちゃんと『マトリックス』になっているので、期待通りの映像を見ることができます。可能な限り大きなフォーマットでの鑑賞をお薦めします。
今回も、見た後であれこれ語り合いたくなる
今、私たちの目の前に出現するのものは、ただの映画ではなく、かつて社会的現象となった映画を、約20年の歳月を経て作者自身が新たに描くという異常事態。なのだから、それが普通の続編映画だったら満足出来るはずがない。『マトリックス』のファンは皆そんな気持ちで映画に臨むに違いないが、ラナ・ウォシャウスキー監督はこちらのそんな要望など、とっくに見越している。本作は『マトリックス』映画自身が語る、『マトリックス』とは何だったのか、そして今は何なのか、なのだ。そんなメタフィクション的な面白さが詰め込まれ、最後にはこの物語がラナ自身の物語にも見えてくる。そして今回も、見た者同士であれこれ語りたくなる。