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ベルイマン島にて (2021):映画短評

ベルイマン島にて (2021)

2022年4月22日公開 113分

ベルイマン島にて
(C) 2020 CG Cinema - Neue Bioskop Film - Scope Pictures - Plattform Produktion - Arte France Cinema

ライター6人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 3.5

なかざわひでゆき

愛と創作を巡る女性の目覚めと成長

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 イングマール・ベルイマンの愛したスウェーデンのフォーレ島へ、映画監督カップルが新作の着想を求めて訪れるものの、女性の方だけが早々に行き詰まってしまう。男性は世界的に知られるベテランの名匠、年の離れた女性はまだ若い新進気鋭の注目株。この年齢とキャリアと性別の差がカギとなり、必ずしも対等とは言えない男女関係に甘んじてきた女性の、いわば自我の目覚めと成長が静かなタッチで描かれていく。現実と虚構の入り混じった巧みなストーリー構成がユニーク。フォーレ島ののどかな自然風景も美しく、ABBAやティナ・チャールズなど音楽の使い方もセンスがいい。『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』のメリンダ・キナマンも登場!

この短評にはネタバレを含んでいます
くれい響

ミア・ワシコウスカの劇中劇が評価の分かれどころ

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

リゾート地を舞台に、倦怠期を迎えたカップルの気持ちのすれ違いや創作における苦悩を描くという意味で、『ビフォア・ミッドナイト』にも通じる一作。自称ベルイマン監督作ファンのミア・ハンセン=ラヴ監督だが、面倒臭いベルイマンオタクに、「ベルイマン・サファリ」なるガイドツアーを描写する一方、私生活で結婚と離婚を繰り返した人間ベルイマンを毛嫌いしているのが丸わかり。中盤からミア・ワシコウスカがヒロインを務める劇中劇が絡み合うが、これが評価の分かれどころ。ティム・ロスのイケオジっぷりもいいが、ジョン・タトゥーロとグレタ・ガーウィグ監督(!)という当初のキャスティングのインパクトには劣る。

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相馬 学

男と女、格上と格下、芸術と生活……せめぎ合う価値観

相馬 学 評価: ★★★★★ ★★★★★

 映画史的に巨匠であるベルイマンは、人としては尊敬すべき人物か? そんな葛藤を抱く映画監督のヒロインの心模様に肉迫しつつ、個人の進むべき道を観客に問いかける。

 設定的に面白いのが、ヒロインの恋人に“格上”の映画監督を据えたこと。“格下”意識を抱き、パートナーに相手にされていないと感じる主人公の心理を、新作として構想している劇中劇に重ねた構造が巧い。

 この島にはベルイマンを崇拝する人、好きでいたい人がいる一方で、唾を吐く人もいる。アートに生きる人もいれば、それ以外のものに人生の価値を見出す者もいる。価値観のせめぎ合いの中で、真の愛とは何? 本作には考えさせるものが多い。

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平沢 薫

物語が二重、三重に重なっていく

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 どちらも映画監督の夫婦が、『ある結婚の風景』の監督でもあるイングマール・ベルイマンが暮らした島でひと夏を過ごす。妻は、自分が今書き進めている脚本のストーリーを少しずつ夫に語る。映画は「2人の日々の暮らし」と「妻が語る脚本のストーリー」という2つの物語を並行して描くので、それぞれの物語を味わいつつ、この2つがどういう関係にあるのかに興味を抱きながら見ることになるが、すると思わぬところに着地する。

 さらにその外側にまた枠組みがあり、主人公の監督夫婦は、本作の監督ミア・ハンセン=ラブと元パートナーのオリビエ・アサイヤス監督の関係も連想させる。そのようにして幾重にも重なっていく物語が興味深い。

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森 直人

巨匠に、むしろ一石を投じる

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

『鏡の中にある如く』(61年)のロケ地になって以降、イングマール・ベルイマンの終生の地となったフォーレ島。本作は聖地巡礼オマージュのようで、しかしずぶずぶの愛に溺れてはいない。固定された歴史的評価を再検討し、旧態依然とした支配的な男性性を抉り出す。21世紀の映画や人生、ジェンダーの在り方を模索する「ベルイマン批評」の試みだ。

主人公の映画監督カップルは、露骨にミア・ハンセン=ラヴ自身と元パートナーのオリヴィエ・アサイヤスを連想させる。彼らの関係の軋みを通して「年長の男性監督」への疑念が表出されていく。その巨大なシンボルがベルイマンだ。ラヴは威光に眼を眩ませず、「聖地」に新しい風を吹かせる。

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猿渡 由紀

新鮮な視点から映画にオマージュを捧げる

猿渡 由紀 評価: ★★★★★ ★★★★★

映画監督同士の夫婦が創作のインスピレーションを求め、イングマール・ベルイマンが暮らした島にやって来る。ふたりが滞在するのは、ベルイマンが「ある結婚の風景」を撮影した家。そこにたどり着くまでの飛行機が揺れたように、着いてからのふたりの関係も揺れ、「ある結婚の風景」を思わせる雰囲気になっていく。ベルイマンが愛した場所で主人公クリスが思いついたストーリー、彼女自身が今体験していること、そしてベルイマンへのオマージュを織り込んでいくやり方は、とても自然でユニーク。映画愛に満ちた作品はほかにもあるが、今作は、肩肘張らない、新鮮な形でそこにアプローチしている。

この短評にはネタバレを含んでいます
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