ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー (2022):映画短評
ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー (2022)ライター6人の平均評価: 4.3
期待以上の素晴らしさ!!
最近ユルかった劇場用MCUだが、久々にインフィニティ・サーガのテンションが戻り、質も歴代屈指。まずC・ボーズマンの不在を真摯に踏まえ、冗談ではなく『ワイルド・スピード/SKY MISSION』のP・ウォーカー追悼ばりの熱いものを感じた。バトンは妹シュリ王女に手渡され、成長譚の形で新時代の女性リーダーの物語が展開する。
メキシコ系のルーツを持つタロカン王国のネイモアの存在が大きい。2018年の『ブラックパンサー』が革命理論の再検討なら、今作が描くのは「戦争の構造」。実の処『仮面ライダーBLACK SUN』との比較可能な点が多いのだが…こちらは堂々マーベルの実力を見せつけた圧巻の傑作だ。
ヒーロー不在、高潔さもない世界の斬新なMCU
高評価を得た前作を自分はそれほど好きになれず、その理由を理解しきれていなかったが、本作を見て目からウロコ。ヒーローの高潔過ぎるほどの高潔に共感できなかったのだろう。
そういう意味では前作よりもはるかに楽しめた。ヒーローなき時代を生きる人々の模索。高潔なブラックパンサーが存在しない世界という設定はそれだけでスリリングだし、高潔ではない迷える人々のドラマにも共感が抱ける。
ヒーロー不在どころかヒロイックな要素がほとんどないドラマを成立させたのは、アメコミ映画としては革新的。女性の群像劇を語っている点もユニークで、MCUの中でも異色と言えよう。個人的には、この“異色”が新鮮に映った。
国王を失ったワカンダに新たな脅威が!
チャドウィック・ボーズマン亡き後のシリーズ第2弾。劇中でもブラックパンサーこと国王ティ・チャラが崩御し、残された妹シュリや母ラモンダらが喪失感と向き合う中、ワカンダに新たな脅威が迫る。それがワカンダと同じく希少物質ヴィブラニウムを有し、その存在を人類に隠してきた海底王国の王ネイモア。侵略者スペインによって蹂躙された南米先住民の子であるネイモアは、戦争や侵略に明け暮れる野蛮な地上の人間を嫌悪し、やられる前にやってしまえと人類抹殺を計画する。悲しみや憎しみに囚われることの危うさ、昨今の世界情勢を意識した自国第一主義の愚かさに警鐘を鳴らす脚本はなかなか巧みで、3時間近い長尺もあっという間に感じる。
喪失と希望、過去と未来、闘いとその先
前作は特にアメリカでは社会現象となり、それだけでも続編へのハードルは高いというのにティ・チャラを演じたチャドウィック・ボーズマンの早逝という喪失も重なった中で良く、映画を創り上げました。まずはこの努力の結実だけでも拍手モノです。そのうえで、アフリカ系のワカンダとラテン系のネイモアの対立という『ブラックパンサー』以外では描けない社会性を焼き付けてきました。前作の成功という圧倒的な実績を武器にライアン・クーグラーはMCUという枠組みを使ってとんでもなく重い想いを映画に詰め込んできましたね。
先代への愛あるリスペクト。「ノンマルトの使者」が重なったりも
ティ・チャラ急死という前提の今回は、冒頭からいきなり切ない思いにかられる演出。在りし日のチャドウィックの勇姿をどう扱うか。クーグラー監督は亡き盟友に対し、これ見よがしな感動喚起は控え、最高の愛情を示したと言える。
物語のわりに長尺な気もするが、MCUの他のヒーローがほぼ絡まない展開は滑らかで、要所のユーモアのセンスも冴える。
戦いの相手に関しては登場時のスリラー的な戦慄や未曾有パワーで引き込んだ後、複雑な背景にも思いを馳せる。海底に生きる道を求めた人々。追いやった人間との関係、築かれた都市の風景、正義と悪の混沌、戦う意味…など、テーマとして半世紀を超え「ウルトラセブン」の名作回が頭をよぎった。
そしてスーパーヒーローは継承されていく
そうだった、もともとスーパーヒーローとは、個人の死によって失われるものではなく、ある志のもとに継承されていくものだった。本作はそれを再認識させてくれる。タイトルであるヒーローに加えて、もう一人の人物も登場、さらにそれを痛感させてくれる。
それと同時に、愛する者を失って苦悩する者が、道に迷いながら、やがて歩むべき方向を見出す物語でもある。観客はその旅に同行しながら、その人物と共に痛みと喪失感が静かに癒されていくのを感じることになる。
メソアメリカ文化を踏まえた海底王国タロカンの装飾が美しく、前作から続投のルートヴィッヒ・ヨーランソンの音楽は今回も絶妙。MCUらしいサプライズも詰まってる。