ソフト/クワイエット (2022):映画短評
ソフト/クワイエット (2022)ライター6人の平均評価: 4.2
ジャンルムービーに「現実」をぶっこむ!
打率の高いブラムハウスの新たな逸品。出だしは『対峙』と重なったが、同じ教会でもゴリゴリの白人至上主義者たちの会合とそこからの暴走。ヘイトクライムの心理構造を「超ジャンル映画」として圧縮。場所を移動するくっきりした三幕構成だが、全編ワンカット=リアルタイム進行で見せることで演劇的というよりドキュメンタルな臨場感が漲る。
特にブラックコメディ的な戯画化の効いた第一幕が恐ろしい。「えらいヤバいところに迷い込んじゃった」感に筆者もアジア人男性として本気で戦慄した。あえて言うならギアを上げてアクセルを踏み込むほど、逆にジャンル的な定型に収斂していくのが惜しいが、ホラーな音響も禍々しく上々の出来映え。
レイシズムの醜さと愚かさと恐ろしさを見せつける衝撃の問題作
教会の一室に集まった平凡な女性たち。一見したところよくある女子会の光景だが、しかし実は反多様性や反フェミニズムを掲げる白人至上主義者グループの集会だ。普段は思っていても口に出せない本音をさらけ出して気分の高揚した彼女たちは、たまたま雑貨店で出くわしたアジア系移民の姉妹を懲らしめようとしたところ、これが壮絶なリンチと仲間割れの阿鼻叫喚へとエスカレートしていく。レイシスト版『鮮血の美学』とも呼ぶべき衝撃のバイオレンス映画。差別の醜さと愚かさと恐ろしさをこれでもかと見せつけると同時に、もはや差別を差別と自覚できないほどまで歪んだ彼女たちの心理にも肉薄する。これは覚悟して見るべし。
『ゲット・アウト』をある意味、超えたド緊張の90分
ブラムハウスの人種偏見スリラーというと『ゲット・アウト』が思い出されるが、ある意味、それよりもはるかに恐ろしい。
ごく普通に見える白人女性たちの集まりが、少しずつ人種偏見で結ばれていることが明かされる。不穏な空気の高まりは、やがて殺人事件へと発展し、取り乱した彼女たちの怒鳴り合いへ。90分ワンカットのリアリティもあって、緊張感は尻上がりに高まる。
“西欧文明は白人が作った。なのに他民族に侵食されている”という閉鎖的な考え方。それが日本に住む日本人にとって無縁の問題ではないことは、入管法の論議からも明らか。ビビりつつも、考えさせられる力作。
“何気ない悪戯”が引くに引けない状態に
動揺しながらトイレから出てくる幼稚園教師から、有色人種である清掃員へ。そして母親の迎えを待つ園児と、カメラが捉える被写体が定まらないことで醸し出される不穏な空気。そして、レイシストによる決起集会を経て、事件勃発! 彼女たち加害者の立場から描いたホーム・インベージョン映画と化す。どこか『ファニーゲーム』に近い胸クソの悪さだが、彼女たちにとっての何気ない悪戯が引くに引けない状態になっていく集団心理の恐ろしさを描いており、そのリアルな言動がカオス状態に。確かに、臨場感勝負であることに間違いないのだが、ほぼ3幕構成だけに、わざわざ全編ワンカット撮影にする必要があったかどうかは疑問。
一見普通の人。でも頭の中は…。現実社会の恐怖を見る
ジェイソン・ブラムは、見ていて良い気持ちがしなかったが翌日も頭を離れず、この映画を買うと決めたそう。まさに同感。一見何気ないオープニングシーンからゾワゾワさせ、女性たちが会話を始めると不快感と衝撃は頂点に達する。だがその後にもっととんでもないことが起こるのだ。主人公は見た目も綺麗で、子供向けの本を書こうとしている幼稚園の先生。そんなナイスな女性の頭の中はヘイトだらけ。人には差別をしても動物には優しいというギャップもまたリアルだ。監督は中国系の母とブラジル系の父を持つ女性で、自らの体験に想を得たと思われる要素も。白人女性を演じた女優たちの勇気にも拍手したい。
差別意識エスカレートの先の、おぞましい恐怖を90分で一気に!
冒頭から、ただならぬ危うさに引き込まれ、ふと気づけば異様な映画体験に全身が硬直し、震えていた。
描かれるのは、偏見のかたまりである白人女性たちのエスカレートする行動。俳優陣の説得力ある演技もあって、周囲のノリと集団心理で、ふとした瞬間に自分もこうなってしまうかも…と、人間の本能を突きつけられた感覚。
約90分が完全なるワンショットで撮られているが、場所の移動がスムーズなうえに、セリフの応酬、狂気的な瞬間も、ぴったりと映像に収められ、カメラの存在を忘れるほど。夕方から夜にかけてのリアルタイムなので、後半は徐々に暗くなってスリルを超加速。エンドクレジット直前のカットまで一切ムダがないのも恐るべし!