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あんのこと (2023):映画短評

あんのこと (2023)

2024年6月7日公開 114分

あんのこと
(C) 2023『あんのこと』製作委員会

ライター6人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4.7

なかざわひでゆき

現代日本への静かな怒りすら伝わる悲しくも残酷な実話

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 貧しい母子家庭でネグレクトされ、日頃から暴力を受け続け、小学校すら卒業できず、生活のために幼い頃から売春を強要されてきたシャブ中の女性が、支援団体との出会いによって初めて「生きる希望」を見出すものの、そんな彼女のささやかな再出発を社会の過酷な現実が木っ端微塵に打ち砕く。コロナ禍で現実に起きた実話の映画化。これまでにも社会の底辺に生きる若者像を幾度となく描いてきた入江悠監督だが、しかし本作はいつになくシビアで残酷で悲しくて厳しい。そこにはモデルとなった女性への哀れみや共感と同時に、他者への無関心や不寛容が蔓延り、弱者が虐げられ搾取される現代日本社会への静かな怒りすら感じられる。

この短評にはネタバレを含んでいます
森 直人

魂のバトンを受け継ぐアンサーソング

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

メジャー系話題作との両輪駆動で進む入江悠の「作家side」の傑出した成果。今回の題材は『ギャングース』の関心の延長とも言えるかも。同時に“based on a true story”の圧倒的な重みが入江流儀の作品組成を変容させ、建築的な設計術より「瞬間」を注視するドキュメンタルな意思が繊細に際立つものとなった。

主演の河合優実が素晴らしく、娘を「ママ」と呼ぶ母親役の河井青葉とは一対で語られるべきだろう。コロナ禍の医療従事者を讃えるブルーインパルスの白煙は皮肉にも美しいひこうき雲の様に伸びていく。ここは『母娘監禁・牝』(87年)、特に荒井晴彦が元々の脚本に書いていたという幻のラストを連想した。

この短評にはネタバレを含んでいます
猿渡 由紀

4年前でありながら忘れられつつあるあの時期のこと

猿渡 由紀 評価: ★★★★★ ★★★★★

社会の底辺で苦しむ若者が正しい人に出会ったおかげで立ち直っていく感動もののように始まるが、そこから予想しなかった、ずっと重い方向に進んでいく。世の中はそう単純ではなく(もちろんそういった感動作にも良い物は多いが)、負の連鎖を断ち切るのは困難。また、ひとりの人間には違う側面があり、正義が生み出すものは必ずしもすべて薔薇色ではないかもしれない。たった4年前のことでありながらもう忘れられつつある、コロナの始まりの尋常でない時期をとらえたところにも意義を見る。国境を越えて共感を呼べる作品では。心の中が変化していく様子を表情で見せる河合優実の演技もすばらしい。これからもっと見たい女優。

この短評にはネタバレを含んでいます
相馬 学

社会の残酷が、ヒロインの顔からにじみ出る凄さ

相馬 学 評価: ★★★★★ ★★★★★

 入江監督の作品の中では、もっとも冷徹な作品ではないだろうか。どれくらい冷徹かというと、社会の残酷に観ているこちらの肝が冷えるレベル。『誰も知らない』の、あの感覚だ。

 児童虐待や薬物などの問題をリアルに描出。そこに初期パンデミックの恐怖をかぶせ、主人公を容赦なく追い込む。横浜に停泊した新型コロナ集団感染クルーズ船のニュースや、空飛ぶブルーインパルスの画が当時の記憶をまざまざと思い出させ、観る者の記憶を刺激する。

 何より印象的なのは、目が前髪に隠れてもその感情が伝わる河合優実の演技。ほぼすっぴんの顔も社会の残酷に“揉まれた感”をよく表わしている。凄い。

この短評にはネタバレを含んでいます
村松 健太郎

これは我々が見て見ぬふりをした話

村松 健太郎 評価: ★★★★★ ★★★★★

近年は大作映画も手掛けるようになった入江悠監督ですが、久しぶりに得意のフィールド&規模感に戻ってきたのではと思わせる一本。作品選びのバランス感覚の良さを感じますね。お話は2020年、コロナ禍で非常に閉鎖的になっていた時に起きていた事柄の新聞記事から着想を得たということ。この頃、確かに我々は他者に思いを馳せる余裕がなく、いろいろなことを見て見ぬふりをしてきたなということを思い出しました。ドラマ「ふてほど」でキャリア的にジャンプアップしたタイミングにある河合優実の主演作品というのも絶妙な巡り合わせでした。

この短評にはネタバレを含んでいます
くれい響

入江悠監督、ひとつの到達点

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

社会派ドラマを描こうとすればするほど、ダダ滑り感の強かった入江悠監督だったが、「不適切にもほどがある!」の純子と同一人物とは思えぬ芝居で圧倒する河合優実をミューズに迎え、紛れもない最高傑作を放った。ダルデンヌ兄弟監督作のように現代社会に対する怒りを表現し、佐藤二朗と稲垣吾郎の起用により、『由宇子の天秤』の斜め上を行くような驚きの展開が待ち受ける。ネグレクト、薬物中毒、売春、そして裏切りと、劇中で描かれるのは、目を背けたくなる過酷な現実ばかりで、とにかく辛い。その一方、河合が『ミッシング』の石原さとみとともに、本年度の映画賞における主演女優賞を競い合う姿も想像できる。

この短評にはネタバレを含んでいます
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