ウォンカとチョコレート工場のはじまり (2023):映画短評
ウォンカとチョコレート工場のはじまり (2023)ライター6人の平均評価: 4.2
過去イチ、シャラメを愛でるキラキラ映画
ティム・バートン監督作のダークなイメージを払拭し、見事なまでに『パディントン』シリーズのポール・キング監督作へと変貌を遂げるミュージカル。当のティモシー・シャラメもパディントン同様、マスコットキャラ化しており、過去イチでシャラメを愛でるキラキラ映画に。チョコレートが人々に幸福を与える展開は、奇しくもジョニー・デップも出演していた『ショコラ』だし、ホラー寸前の『地獄のモーテル』な状況は『アニー』<<<『オリバー!』な孤児院テイストをベースにしているなど、斬新さは感じない。とはいえ、『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』同様、原作キャラを使った前日譚としては、かなり巧くできている。
王道でクラシックな良さが伸びやかに
ティム・バートンの個性でクセ強めに味付けされた『チャリチョコ』の前日譚というより、ロアルド・ダールの原作に向けて初期化したような作風。ウォンカもトラウマ系の設定が払拭され、とことんピュアな好青年になり、ティモシー・シャラメの爽やかな存在感にばっちり合っている。
お話は上京した移民熊の活躍を描いた傑作『パディントン』のポール・キング監督らしい内容。社会的に抑圧されている側への優しい目線や市井の人々との共助といった主題は、『オリヴァー・ツイスト』などディケンズの系譜を継ぐもの。やたら豪華な脇のキャストにしろ英国色がしっかり出ているのが素晴らしい!(J・タルボットの音楽もどこか後期ビートルズ風)。
お菓子のようにカラフルでスイート
カラフルでスイートでドリーミィ。チョコレートという、それだけでうっとり甘いアイテムをめぐるおとぎ話が、お菓子のような色彩とデザインで、歌と踊りと笑いを加えて描かれる。この世界の絵本や玩具のような"作り物感"は、本作の監督ポール・キングが、しゃべるクマを描いた『パディントン』シリーズに共通するもの。
共演者も豪華で、オリヴィア・コールマン、サリー・ホーキンスが安定の巧さ。ヒュー・グラントが4頭身に加工されて演じる奇妙な種族ウンパルンパも素晴らしいが、個人的には「ミスター・ビーン」のローワン・アトキンソン扮する神父が率いる、フードを被った修道士500人の詠唱がツボ。
優しさとユーモアにあふれた娯楽ミュージカル
「パディントン」のポール・キングらしく、優しさとユーモアにあふれた、ピュアな娯楽映画。暗いニュースが多い中、最高のエスケープを与えてくれる。ティモシー・シャラメが魅力的なのはもちろん、脇を固める役者もコメディの才能あふれる人たちばかりで、終始、たっぷり笑わせてもらった。大がかりなダンスシーンは、黄金時代のハリウッドを思わせる華やかさ。パク・チャヌク作品や「ラストナイト・イン・ソーホー」を手がけた撮影監督チョン・ジョンフンは、ウォンカが作るチョコレートがいかに特別で美味しいのかを、ビジュアルで見事に伝えていく。心に残るほどの名曲はないものの、音楽も楽しい。
快作ミュージカル誕生
71年版はともかく、05年版の印象がまだ色濃く残っている中で、その前日談をしかもミュージカルでやるというのはかなりの冒険だと思います。それを見事にやり切った作り手と演じ手にまずは大きな拍手を送りたいと思います。ウォンカにティモシー・シャラメというのは思いもよらぬ一手でしたが、映画を見終わってみれば”最適解”と言えるでしょう。歌唱からダンスまで大忙しですがやり切ったティモシー・シャラメは今後ハリウッドの顔になるやも。豪華な共演陣が揃いましたが中でもヒュー・グラントが最高です。彼が出てきた瞬間に場をさらいます。
ミュージカル場面の昂揚感! エンタメの勢いで夢中にさせる
監督が1940年代のミュージカル映画黄金期を意識したとあって、ミュージカル場面の編集やカメラワークはクラシカルな美しさと、観る者のテンション上げる瞬間を見事にブレンド。チョコレート店内部や、コンパクトなチョコレート製造機(マニア心くすぐる!)にも、レトロ感と新しさ融合の最高の美術の仕事を堪能できる。
ティモシー・シャラメは野心に溢れ、悲しい過去も引きずる前半から、少しずつ以前の映画化作での大人のウォンカの片鱗を見せる終盤へ繊細に演技をシフト。
展開的にツッコミどころは散見しつつ、勢いと楽しさで強引に押し切るので、多くの人は気にならないかと。伝わるメッセージは想定内な分、観客の間口も広いのでは?