Flow (2024):映画短評
Flow (2024)
ライター6人の平均評価: 4.8
徹底して写実的なビジュアルが寓話的な物語に説得力を与える
既に文明が崩壊してしまったと思しきディストピアな世界。大規模な洪水が押し寄せる中、流れてきたボートに飛び乗って命拾いした一匹の猫が、カピバラや犬、キツネザルなど様々な動物たちと助け合いながら困難に立ち向かう。分断と対立の時代だからこそ胸に迫る、動物同士の種族を超えた友情と団結の物語。オープンソースソフトウェアで作られたCGアニメだが、ビジュアルは細部まで徹底して写実的だ。そのスケール感と没入感は圧倒的。さらに、あえて動物たちを擬人化したりなどせず、どこまでも猫は猫らしく、犬は犬らしく、カピバラはカピバラらしく振る舞い思考する。おかげで寓話的な物語にリアルな説得力と深い感動が与えられた。
その箱舟は、ヒトのいない美しい世界を漂う
映画が始まるや好機心を刺激され、その世界に没入する。水位が急上昇した世界で、一匹の猫は生き残れるのだろうか?
なぜ水位が上がったのかは、気候変動に敏感な方なら想像をめぐらすことができるだろう。ここで描かれる世界は文明の残骸のみで、人の気配がまったくないディストピア。文明とは無縁の動物たちが、空と海の間でしっかり生き延びていることがイマジネーションを刺激する。
日差しと水面の反射、空の青と草木の緑、暗闇と底知れぬ沈下。言葉のない映画だが、その美しさは箱舟に乗った動物たちの生命力とともに、多くを物語る。素晴らしい。
ものすごく濃密なのに、いつまでも観ていられる
文明が滅び、洪水に飲み込まれつつある世界を舞台に、猫と動物たちが困難を乗り越えつつ漂流していく。カメラアングルはいつでも動物の目線で、ぐるぐる駆け回りながら、緑豊かで水がとめどなく溢れる世界を映し出していく。いろいろなテーマが思い浮かぶが、猫たちと一緒に世界を旅するうちに、どんどんどうでもよくなっていく。90分足らずの作品とは思えない濃密さで、いつまでも観ていられる。それが楽しくて仕方がない。ラトビア人のギンツ・ジルバロディス監督が、宮崎駿監督を尊敬しているのもよくわかる。絵の連なりによって画面に生命が息づきはじめる、アニメーションの喜びに包まれる稀有な体験を味わってみよう。
この映画が描く世界の姿に魅了される
生い茂る植物を映し出す水面、その微かで細やかな震え。それに代表される自然描写は素晴らしいが、その部分だけを見れば、それを凌駕する緻密な描写で圧倒する大手スタジオの作品もある。しかし本作は、描き出す世界の姿によって魅了する。
人類による建造物は残っているが、人類はいなくなり、言葉は存在しない世界。植物が生い茂り、水は透き通り、動物たちが生きている。そこに大洪水がやってくるが、ノアの方舟は不要で、異種類の動物たちが水に浮く船を共有する。動物は擬人化されず、いかにも生物らしく、備わった性質によって行動する。そこで生きるネコの姿を追いながら、いろんなことに思いを巡らせてしまう。
猫好き以外にも断然おすすめの大傑作
ノアのいない「ノアの方舟」のような物語を引っ張るのは、1匹の猫。人間はいないものの、かなり最近までいたのであろうことは確か。ギンツ・ジルバロディス監督は、その背景を説明することをしない。洪水が襲ってくる中、猫は、犬や鳥など、動物たちと協力していくのだが、これはそのメッセージを伝えるものなのか、あるいは環境破壊への警告なのか。そこも含めて観客の解釈にまかせるのだ。アニメーションではしばしば動物の表情が誇張されたり、動物がしゃべったりするが、この映画にそれはなし。鳴き声はすべて本物の動物の声を録音したもので、動きもリアル。シンプルで奥深い、見るたびにより好きになる大傑作。
過酷な世界をサバイブする動物の感覚が信じがたいレベルで伝わる
日常を生きてたら絶対に味わえない感覚を共有させるのがアニメーションの真髄なら、本作はその目的を軽々と達成する。
キャラは動物のみでセリフはゼロ。多少、擬人化された部分も各動物の習性に沿っており、ネコを中心に彼らの目線、気持ちで洪水など大自然の脅威を体感させる。このムードは斬新。
風景の中の動物の位置、それぞれの距離感などが計算された美しさで表現され、カメラの動きも鮮やか、かつダイナミックで酔わせる。動物ならではのユーモアも絶妙スパイスに。
人間は一切出てこないが人間たちが作ったであろう文化の形跡が無言のまま深いテーマを訴えてきたりも。監督はラトビア人。世界のアニメ文化レベルを知るうえで超必見。