トップガン マーヴェリック (2020):映画短評
トップガン マーヴェリック (2020)ライター8人の平均評価: 4.3
“理想の続編”なれど全体に漂う「ジョックスたちの黄昏」感
「ボーン」と「トップガン・アンセム」のイントロが流れるオープニングで、一気に36年前の『トップガン』の世界にタイムスリップ。丁寧かつダイナミックに作られた“理想の続編”。前作とのつながりは多いが、ご都合主義的なストーリーが気にならなければ、何も知らなくても十分楽しめる。ただ、前作で雄々しく謳い上げられていた「ジョックス(体育会系)たちの復権と栄光」が、今作ではギンギンのMTV風味が薄れたからなのか、時代の変化のせいなのか、トム・クルーズの加齢のせいなのか、どうにも「ジョックスたちの黄昏」に見えてしまった。前作をイメージさせるシーンが多い分だけ、なおさら。
ファンの期待に応えたマンネリズムとノスタルジー
米海軍パイロットのエリートチーム「トップガン」に教官として戻ってきたマーヴェリックが、亡き親友グースの息子を含む新世代の指導に当たる。監督は故トニー・スコットから『オブリビオン』のジョセフ・コシンスキーにバトンタッチ。しかし、オープニングから演出のスタイルは前作そのもので、大まかなストーリーの流れも非常によく似ている。このマンネリズムこそが、本作の場合はむしろ強み。『トップガン』の看板にファンの期待する要素がまんべんなく詰め込まれている。その一方で、いつまでも若いつもりのマーヴェリックに突きつけられる年齢の現実が、ノスタルジーに浸るリアルタイム世代に大人の振る舞い方を問う。
36年も待った甲斐があった
これぞ、ハリウッドの娯楽大作!ハイクオリティのアクションが満載で、感動も、笑いもある。1作目の精神をしっかり貫き、ノスタルジアをたっぷり盛り込みつつも、そこだけに頼ることをせず、新しいストーリーで新しいことをやっている。そこそこ成功したらすぐにでも続編を作るのがハリウッドの常識ながら、トム・クルーズとジェリー・ブラッカイマーは36年もかけて正しいストーリーを決めていった。妥協しなかった彼らに大拍手。若手パイロットには女性も入り(1作目の時代にはアメリカに女性戦闘パイロットは存在しなかった)、人種も多様だが、ポリコレのためという感じはゼロ。彼らの間の相性は自然で、みんな魅力的だ。
焼き直し!? いや、これはスケールアップだ!
続編であることは間違いないが、構造的にはリメイクと呼んで差し支えない。
無鉄砲飛行→挫折→ドックファイト……という前作の構図を、よい意味で緩くしたつくり。というのも、マーヴェリックは歳を重ねた分、大人の余裕があり、映画自体もそれをユーモアとして表現。不時着した後のトボケた展開をはじめ、随所に笑える描写をまぶす。
とはいえ最大の見どころは、やはりスリリングな飛行シーン。特撮に頼らず、本物にこだわった点に、ハリウッド大作の底力を見た。前作は、地上を舞台にした『スター・ウォーズ』を目指したというが、その迫力がさらにアップデートされているのが嬉しい。
あえて進化させない、という大胆な試み
あえて進化させない。それが製作者トム・クルーズのコンセプトなのではないか。1986年の映画の続編を、36年後の今、当時と同じ世界観で描く。夕陽の中を走るオートバイ、海辺で興じる球技など、シーンも映像のタッチも『トップガン』を連想させるものが続々。ストーリー展開も、きっとここでこうなるだろうと思うとその通りになる、当時のハリウッド映画の王道パターン。本作は、そのようにして『トップガン』の輝きを甦らせようとする大胆な試みに見える。製作陣がその難関に立ち向かう姿勢が、本編のドラマに重なっても見える。そして、彼らの決意の強さと大胆さもまた、『トップガン』が持っていものだったことに気づかされる。
他に誰ができましょうか?
あのトップガンがスクリーンに還ってきました。過去にも長い空白期間を経て、同じキャラクターを演じた俳優はいなくもないのですが、36年ぶりに主役として還ってくるなどという、偉業はトム・クルーズ以外に誰ができましょうか?
かつての相棒の息子の教官役を務めたり、昔のライバルが出世していたりと、時代の流れを感じさせる部分もありますが、それでも主人公として物語のど真ん中に立っているトム・クルーズの姿は貫禄とか年輪と言った言葉以上のものを感じさせます。トニー・スコットの後を受け続くという大役を担ったジョセフ・コシンスキーも大健闘です。できればIMAXで。
これぞ“ベスト・オブ・ザ・ベスト”な続編!
かつての相棒、グースの息子との確執が軸となるストーリーを彩るのは「デンジャー・ゾーン」なオープニングに、アイスマンとの再会、F-14という、前作ファンが観たいもの全部乗せ。理系監督だと思われたジョセフ・コシンスキー監督も『オンリー・ザ・ブレイブ』に続く体育系ノリで、チームプレイの大切さや戦闘機パイロットの存在意義を定義していく。さらに、時代をしっかり反映し、女子&オタコンビやF/A-18E/F、カワサキNinjaなどがアップデートされるなか、前作から怖いモノなしだったマーヴェリック自身もイーサン・ハントと化すという、トムクル・マルチバースに突入! まさに“ベスト・オブ・ザ・ベスト”な続編だ。
観ていて呆れるほどに“トップガン”してた
前作が1986年。そこからの映画の進化を考え、様変わりのアップデート新作を予想したら、あっさり裏切られた。明らかに『トップガン』が甦るスタイルと物語、何よりスピリットが貫かれ面食らったほど。
俳優たちの過剰なアップが有無を言わせず感情移入を誘い、やや大仰なプライドと確執、喪失感および恋愛ドラマ、あからさまな音楽の波状攻撃によって「これが映画だ」という忘れかけた感情に襲われる。前作からのネタも宝庫だが、それを「感じず」とも勢いに身を任せられ、IMAXカメラ駆使の、現段階最高レベルであろう飛行アクションがめくるめく体感を上書きしてくる。
一方で現在進行形の戦争も重ねながら観てしまうが、そこも重要。