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フォックスキャッチャー (2014):映画短評

フォックスキャッチャー (2014)

2015年2月14日公開 135分

フォックスキャッチャー
(C) MMXIV FAIR HILL LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

ライター6人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4.5

山縣みどり

ありのままの自分を愛せなかった男の愚かさが怖くも哀れ

山縣みどり 評価: ★★★★★ ★★★★★

『アメリカン・スナイパー』の主人公は父親から「この世には3種類の人間がいる。狼と羊と番人だ」と言われ、愛国心あふれる番人となる。エクストリームな論理だが、本作の主人公ジョンは自分の“永遠の羊”ぶりを隠すべく虚勢を張るから始末が悪い。男の中の男と誰もが認めるデイヴの弟マークがジョンの妄言に心酔したことが全ての発端で、いびつな三角関係を形成させつつジョンの心の闇をあぶり出すベネット・ミラー監督の演出が心にしんしんと染みる。ありのままの自分を愛せなかった男の愚かさは怖く、哀れだ。脚本はもちろん、スティーブ・カレルら役者陣が披露する複雑な心理演技、緩急のある編集と実に見応えがある。

この短評にはネタバレを含んでいます
くれい響

いろんな意味で一線を超えている

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

どこかキャッチーなタイトルから想像もつかない不穏な空気が流れるなか、淡々と進んでいくストーリー。『ザ・マスター』にも似たデュポンとシュルツ(弟)の関係性、『薄氷の殺人』にも似た低温感であることから、明らかに観る側の体調や環境によって、捉え方が変わるタイプの作品なので要注意! 作品を観たシュルツ(弟)は「監督は一線を超えてしまった」とコメントを残したが、俳優たちも違う意味で一線を越えており、いつもと違うしかめっ面、アホ面、ヒゲ面には終始圧倒させられっぱなし。そして、デュポンのマネージャー役で登場するアンソニー・マイケル・ホール。彼の変貌にいちばん驚く、または気づかない人も多いはず。

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相馬 学

“正当に評価されない”、そんな不満が招いた悲劇

相馬 学 評価: ★★★★★ ★★★★★

 努力しても成果を上げても報われない。頑張りが足りないのか、それとも世間が正当な評価をあたえてくれないのか? 本作の核心は、この双方向の疑問の境界を浮かび上がらせたことにある。

 五輪で金メダルを獲得しながらも貧しい暮らしを強いられるレスラーと、巨万の富を手にしながらも満たされぬ大富豪。そんな両者の出会いが史実通りの悲劇を引き起こす。そこにいたるサスペンスはもちろん、葛藤のドラマにも見入ってしまう。

 アメリカという国家が人をどう評価するのかをも視野に入れた物語は、社会派劇としても興味深い。求めすぎた彼らが悪いのか、あたえない国家が悪いのか? 役者たちの熱演ともども歯応えのある力作だ。

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なかざわひでゆき

アメリカ階級社会の闇を垣間見る

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 レスリングのオリンピック金メダリストがスポンサーの大富豪に殺されたという実際の事件をもとに、その詳細を克明に再現していく。
 アメリカは伝統的にイギリスも顔負けなくらいの階級社会。由緒正しい大財閥の御曹司ジョンは、生まれた時から莫大な富と権力が約束され、下々の世界とは完全に隔絶されて育ち、それゆえに空虚な裸の王様だ。一方で、国民的英雄とは名ばかりの貧しいアスリート兄弟。その両者が出会ったことが不幸の始まりと言えよう。
 ただ、本作は直接的な犯行動機を明確にせず、不穏な空気の中で歪んでいく人間関係の顛末を客観的に描く。その荒涼とした薄気味悪さに、知られざるアメリカの闇を垣間見る。

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森 直人

不気味にして、絶品。

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

全方位的にハイレベルな傑作! 発表間近のアカデミー賞では5部門にノミネートされているが、もしオスカーを取り逃してもこのプロの仕事には何の傷もつかない。

まず主要キャスト3人の俳優力が凄まじい。スティーヴ・カレルの暗黒版「40歳の童貞男」的な狂気。マーク・ラファロの聡明さが醸し出す抒情。そしてマッチョな外面の裏に脆い精神を抱えたアスリートの哀しさを体現するチャニング・テイタム。各々が驚異の新境地に踏み出している。

監督のB・ミラーは『カポーティ』で孤独な魂の共振を、『マネーボール』でスポーツ業界を描いたが、今回は両者の要素が高次に昇華された一本。実話をギリシャ悲劇ばりの強度に再構築した。

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平沢 薫

映像が冷えていく。秘めた感情が加熱していく。

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

不穏な空気が持続する。映画の元となった実話を知らずに見ても、画面には常に、何かよくないことが起きるのではないかという、漠然とした不安、得体の知れない緊張が張りつめている。そこにスティーヴ・カレル演じる富豪が登場すると、物腰は静かなのに、画面の緊張感が一気に高まる。この演技が数々の映画賞にノミネートされたのも納得。

台詞は極端に少ない。音楽もほとんどない。画面を静けさが支配する。季節とは関係なく、世界が寒い。監督は「カポーティ」のベネット・ミラー。どこまでも冷えて行く映像の裏側で、人間たちの捩じれた激情が秘められたまま熱を増していき、沸点を迎える。その熱の対比が、強烈な印象を残す。

この短評にはネタバレを含んでいます
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