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わたしに会うまでの1600キロ (2014):映画短評

わたしに会うまでの1600キロ (2014)

2015年8月28日公開 116分

わたしに会うまでの1600キロ
(C) 2014 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

ライター7人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4

ミルクマン斉藤

「廃馬を撃つ」のもあの時代的だ。

ミルクマン斉藤 評価: ★★★★★ ★★★★★

時は’95年。ヒッピイズムが少し回帰した時代の女性の自分探しの物語だが、登場人物(と彼らの着るTシャツ)や音楽(「コンドルは飛んでいく」のリピート)、A.リッチら引用される詩の趣味がまんまヒッピー時代を感じさせるのが監督J-M・ヴァレ&脚本N.ホーンビィらしい。過酷な旅程に必要な道具ひとつ検証せずに冒険に出てしまう行き当たりばったりな主人公も然り、なるほどフラッシュバックとして垣間見える彼女の過去はけっこうヘヴィで、いろんな意味でカラダを張ったR.ウィザースプーンともども痛々しいが、その原因は簡素にいえばマザコン。なぜそこまで自己処罰的な観念に結びつくのかはイマイチ判然としないのだが…。

この短評にはネタバレを含んでいます
なかざわひでゆき

主人公の心を支える亡き母親こそが真のヒロインかも

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 愛する母親の死と結婚生活の破綻で人生のどん底を味わう女性が、厳しい大自然を1600キロに渡って踏破するパシフィック・クレスト・トレイルに挑戦する。
 原作は実話。次々と予期せぬ問題にぶつかり、命の危険にまで晒されながらも、気力と執念で立ち向かっていくヒロインを、リース・ウィザースプーンが汗と埃にまみれながら体当たりで演じる。
 彼女が道中で想いを馳せるのは、女手一つで自分と弟を育てた亡き母親の姿。どんな逆境にも弱音を吐かず、常に物事の良い面に希望を見出し、目の前の困難を決して他人のせいにしない。そんな母親の人生哲学は、多くの人が生きづらさを感じる時代に深く響くものがあるだろう。

この短評にはネタバレを含んでいます
森 直人

美しさの中に身を置くこと

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

原題は“Wild”。S・ペン監督の『イントゥ・ザ・ワイルド』がビートニクの系譜にある青年の自分探しなら、こちらは大人の女性のリセット&デトックス。おそらく共感の幅はより広い。

『キューティ・ブロンド』の頃は社会進出に向いていたR・ウィザースプーンが、精神性に旋回してきた事は興味深い。L・ダーン扮する母の言葉「美しさの中に身を置く」は、本作の総合的なメッセージとして印象的だ。

脚本がN・ホーンビィで、監督がJ=マルク・ヴァレ。共に音楽マニアだけあり、選曲は抜群。ポーティスヘッドなど舞台となる95年当時の楽曲に加え、サイモン&ガーファンクルなど全てヒロインに寄り添うものとして考え抜かれている。

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相馬 学

フィジカルとメンタルの二極を活写した才腕に唸る

相馬 学 評価: ★★★★★ ★★★★★

 『ダラス・バイヤーズクラブ』で感心したのは、キャラのフィジカルとメンタルが呼応して、リアルな人物を創造していたこと。ジャン=マルク・ヴァレ監督のそんな才腕は、本作でも十分に感じ取ることができる。

 靴擦れや生ヅメなどのヒロインの肉体的な痛みをドキュメンタリーのように切り取りながら、フラッシュバックでは彼女の心の傷に触れる。これらをどう克服するのか? フィジカルかつメンタルな意味でのサバイバルがそこにある。

 必然的に役者への要求も高くなるが、フラッシュバック内の生臭いセックス・シーンを含め、心も体も削るリース・ウィザースプーンはお見事。彼女を見るだけでも価値のある逸品。

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山縣みどり

体に垢がつくのに反比例し、心の澱が消えていく

山縣みどり 評価: ★★★★★ ★★★★★

人生を立て直そうとトレイルに挑んだ女性の話なので、“自分探し”する人間が嫌いな私は最初やや斜に構えて見ていたが、主人公シェリルの気持ちがぐんぐんと迫ってきた。厳しい自然と対峙する彼女の脳裏に浮かぶ思い出をフラッシュバックで見せながら人生崖っぷちとなった経緯を描くジャン=マルク・ヴァレ監督の手法がパワフルだ。演じるリース・ウィザースプーンの体当たり演技も素晴らしく、入浴もできない旅で顔や体が薄汚れていくのに反比例して澱が消えていくシェリルの心情をリアルに表現している。そして、もう一人の主役であるカリフォルニアの自然をとらえたカメラワークが感動的に美しい。見ている私の心も洗われた気がする。

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平沢 薫

言葉以前に、身体感覚に共感させられる

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 主人公の身体的な痛みから入る、という導入部が巧み。その痛みは、誰もが体験している"靴擦れ"が極限状態になった激痛だから、観客は自分の経験から類推して、主人公の痛みに共感することが出来る。すると、その後も主人公が痛み感じるたびに、それをどこかで共有している気持ちになる。喉の渇きに共感し、見知らぬ人と遭遇したときの恐怖に共鳴してしまう。先に身体感覚を共有すると、心理にも共振しやすくなる。一方、主人公がどんな人物で、なぜ旅に出たのかは、主人公が歩きながら過去を順不同に回想する形で、謎解きのように少しずつ明かされていく。この導入部と構成が、ただ歩くだけの物語を感情を揺さぶるドラマにしている。

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くれい響

『アリスのままで』がしっくり来なかった人はゼヒ!

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

『ビッグ・アイズ』のオファーを蹴って、あまり観たくない裸体もさらけ出したリース・ウィザースプーンは相変わらずスゴいが、『きっと、星のせいじゃない。』に続き、ヒロインの母を演じたローラ・ダーンはもっとスゴい! 一時期流行した“自分探しモノ”だが、1600キロの道のりも、彼女の過去も、邦題からのイメージ以上にへヴィ。しかも、次々災難が降りかかる“一人旅あるある”や、旅の途中で出会う老人や若者、ベテランハイカーら男性陣が絡んだハズした演出がことごとく巧い。ジャン=マルク・ヴァレ監督作としても、『ダラス・バイヤーズクラブ』よりストレートだからこそ、『アリスのままで』超えの女性映画になったのだろう。

この短評にはネタバレを含んでいます
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