永い言い訳 (2016):映画短評
永い言い訳 (2016)ライター3人の平均評価: 4.7
人間の素晴らしさも嫌らしさも余すことなく描く
人間は必ずしも、年齢を重ねることで賢く成熟するわけではない。むしろ、自分を賢く成熟した人間のように見せる、知恵や手練手管を身に付けただけの人が大半なのではなかろうか。本作の主人公・幸夫のように。外面だけは良いけど自己愛も人一倍強く、身勝手で愚かで打たれ弱い。そんな彼をダメ人間と呼ぶのは容易いが、しかし誰もが多かれ少なかれ“もう一人の幸夫”を胸に秘めているはずだ。
淡々とした平凡な日常風景を通して、人間の素晴らしさも嫌らしさも余すことなくリアルに描くのは西川監督の真骨頂。その言葉のひとつひとつ、感情のひとつひとつが鋭く突き刺さる。それでいて、柔らかな希望と救いの余韻を残す辺りがまた格別だ。
21年ぶりの共演は“最低な片思い”
さすがは企画協力でクレジットされてる、是枝裕和監督の愛弟子。主人公は妻を失ったダメ男で、隣に鋭い一言を放つ池松壮亮を配するあたり、『海よりもまだ深く』。しかも、異業種からの刺客がいい味を出すなかで、次第に芽生える『そして父になる』展開。とはいえ、やっぱ見ちゃいけなかった携帯メールからのTVドキュメンタリーの件など、シニカルな笑いは、師匠には出せない西川美和監督の持ち味といえるだろう。女性監督ならでなブロマンス要素も盛り込み、“最低な片思い”を演出(本木&深津共演のドラマ「最高の片思い」の出会いはスキー場!)。それにしても、竹原ピストルが醸し出す間は、いろんな意味で怖いものがあります。
人生は後悔の連続だからリカバリー力を身につけよう!
自意識が強い作家の幸夫が妻を失った喪失感から立ち直る話なのだが、モデルがいたのではないだろうかというくらいに生々しい展開にぐいぐい引き込まれる。同じ境遇にある陽一の育児をサポートして疑似家族となることで幸夫が癒される心温まる話かと思いきや、厳しい現実を突きつけるのも西川美和監督らしい。セリフに時々、毒っ気を感じるが、それが人生のリアルってものかも。幸夫の姿を見ながら、人生は後悔の連続だからリカバリー力を身につけようとつくづく思った。主演の本木雅弘は熱演しているが、やはり目が離せないのは陽一役の竹原ピストル。自然体なのに役になり切る才能が素晴らしく、演技している感ゼロ。天才じゃなかろうか。