A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー (2017):映画短評
A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー (2017)ライター6人の平均評価: 3.7
テレンス・マリックの影響も伺える、哀しく切ない幽霊譚
これは意表を突かれた。不慮の事故で死亡し、残された妻の傍にいるため幽霊となった男性。やがて彼女は夫婦の想い出が詰まった家を去るが、外へ出られない主人公は一人ぽつりと残されてしまう。誰にも姿が見えず、誰とも喋ることが出来ず、ただ無言で時間と住人の移り変わりを見守ることしかできない幽霊。白いシーツを被ったユーモラスな姿が、むしろ主人公の果てしない孤独と哀しみを引き立てる。デヴィッド・ロウリー監督は出世作『セインツ -約束の果て-』でもその傾向はあったが、詩情豊かでナチュラルな映像美や主観的な時間と空間の感覚表現に、テレンス・マリックを彷彿とさせるものがある。不思議な味わいがクセになる映画だ。
ポカーンとなる快感
このゴーストの外見だけでは、リアルな話なのか、ふざけているのか戸惑う人も多いだろう。しかし観始めると、白いシーツで立っているだけで、愛する人の近くにいるのに気づいてもらえない哀しみが漂ってくるから、あら不思議。しかも体勢の微妙な変化や、シーツの皺でも感情を伝えるシーンがあったりと、オスカー俳優、「被りもの」の内側演技でも大健闘である。
映像の切り取り方や編集によって、前半から「時間」や「場所」の曖昧な感覚が提示されるが、じつはこれ、ゴースト世界の感覚だとわかる中盤からは、何やら『2001年宇宙の旅』的な壮大なテーマも感知させ、他のどんな映画とも違う、狐につままれたような奇妙な後味が訪れる。
「劇画オバQ」よりせつない、“リアル オバQ”
『セインツ -約束の果て-』で引き裂かれた夫婦を演じたケイシー・アフレックとルーニー・マーラーが、さらに大物になって再共演。今度こそ幸せになってもらえるかと思いきや、今度も(いい意味で)性根が腐ってるデヴィッド・ロウリー監督だけに、秒でケイシー死亡。三本毛もないリアル「オバケのQ太郎」と化し、ひたすらルーニー演じる妻を見守る。せつない、せつないと思っていると、物語は急展開。語り口は淡々とし、多くは語られないあたりは『セインツ』同様だが、本作では、さらにテレンス・マリック監督作ばりに怒涛の展開になるのも見どころ。さすが、A24作品ならではの、思い切った幽霊物語である。
手抜きコスチューム風な外見を見誤らないで!
穴を開けたシーツを被ったゴースト像がハロウィンの手抜きコスチュームにしか見えず、懐疑心たっぷりに見始めたけれど、実に奥深い物語だった。途中までは呪縛霊になったゴーストが人生(?)に区切りをつけるまでと思わせ、物語はやがて時空を飛び越える。この展開に違和感がなく、先が読めないのもいい。D・ロウリー監督のチャレンジ精神に拍手するとともに、人類や地球の営みを宇宙規模で俯瞰する監督の世界観にうなる。星野之宣の漫画「遠い呼び声」に通じているものがあるけど、読んだことがあるのか? C・アフレックがシーツ姿で演じるゴーストの物悲しさが伝わり、オスカー俳優の看板に偽りなし。
ただそこにいるだけのゴーストが、切なく愛おしい
ゴーストがこのような存在ならば、その世界はきっと美しい。ただそこにいることしか出来ないゴーストが、切なく愛おしい。そういう場所が、ほとんどセリフはなく、映像とごくわずかな音楽だけで描かれていき、静かな余韻に浸らせてくれる。
ある人間が死去するが、そのとき抱いていた思いが消えず、その場所にとどまってゴーストになる。ゴーストには顔もなく、やれることは電気を消したりつけたりすることくらい。誰かを怖がらせることもない。ただ思いが持続して、そこにあり続ける。
だがそんなゴーストが、ある美しい発見をする。その瞬間が言葉ではなく映像で描かれて、観客もそれをゴーストと共有できる。
好き嫌いの分かれる実験的映画
タイトルからホラーを期待すると、裏切られる。今作は、後悔、悲しみ、愛、そして、必ず死ぬ運命にある人間は自分の存在をどう世の中に残していくのかといった深いテーマに迫るもの。そのアプローチは独創的かつ実験的。幽霊が、まるで幼い子供のハロウィンコスチュームみたいなシンプルなルックスで出てくるのは、そのひとつ。だが、芸術的であるのと同時に抽象的でもあり、自己満足的でもある。見る人によって好き嫌いは大きく分かれるだろう。ケイシー・アフレックにとってはオスカーにつながった「マンチェスター・バイ・ザ・シー」の次にあたる主演作だけに、演技の見せどころがほとんどないのも残念。