ダンボ (2019):映画短評
ダンボ (2019)ライター6人の平均評価: 4
ちゃんと「ティム・バートンの映画」になってる
副題をつけるなら「ドリームランドをぶっつぶせ!」か?(『グレイテスト・ショーマン』の歴史観へのアンチとも)。横暴な支配者に対する怒りの情念が過剰なほど爆発。そしてM・キートンにD・デヴィート……おぉ、『バットマン リターンズ』のリターンズじゃないか!
1941年のオリジナルアニメが格別の名作なので賛否は避けられぬ企画だが、実写化に向けての判断は概ね正解だと筆者には思える。「ピンクのゾウ」はさらっとこなし、作品のテーマが凝縮されたダンボの飛翔シーンを大きく展開しているのも良し。重い耳とカラダで不器用に飛ぶのが泣ける。むろん異形の者への愛情と尊厳は、『ダンボ』とバートンを結ぶ最も大切な共通項だ。
ティム・バートンの成熟を感じさせる佳作
なんとも温かくて優しい映画である。ディズニー作品だからということもあるかもしれないが、しかし『シザーハンズ』の頃に比べるとだいぶエッジが取れたというか、ティム・バートンも丸くなったもんだなーとしみじみ。もちろん、マイノリティの悲哀を滲ませるストーリーは彼らしいし、おもちゃ箱をひっくり返したようなカラフルで賑やかな世界観も相変わらず。この少年のような遊び心と賢者のような悟りを兼ね備えたバランス感覚が、バートン作品と共に年を重ねてきたファンとしては嬉しい。まるで孫におとぎ話を話して聞かせるお爺ちゃんみたいなんだよね。前作に続いて、すっかりバートン映画のミューズとなったエヴァ・グリーンも好演。
ティム・バートンによる「This Is Me」
なかなか手放しで喜べないディズニーアニメの実写版シリーズだが、『ダンボ』の“アウトサイダー=フリークス”“サーカス=見世物”といったキーワードは、ティム・バートン監督にとっての大好物! しかも、アーレン・クルーガーによる脚本は、冒頭の蒸気機関車ケイシー・ジュニア登場からオリジナルをリスペクトしながら、「This Is Me」な人間ドラマを経て、“テーマパーク批判”というガチで挑戦的な展開に突入! しかも、『バットマン リターンズ』のヒーローとヴィランがテレコになって対立し、例のラリパッパシーンもいい感じに脚色。そういう意味では、112分というオリジナルの倍近い尺でもアリといえる。
ティム・バートン監督のダンボは白塗りが似合う
ティム・バートン監督だから、ダンボが夜の空を飛ぶ。もっとバートン監督流のサーカスが見たかったが、この監督だからこその光景が何度もある。ダンボの顔も「シザーハンズ」「ビートル・ジューズ」の白塗りピエロ化粧になると、急にバートン版に変貌するのだ。バットマンことマイケル・キートンと、ペンギンことダニー・デビートも共演、20世紀初頭のサーカス看板風の世界のあちこちにバートンらしさが潜む。テーマパーク"ドリームランド"の建築デザインや、そこに"ナイトメア"の区画があるのもバートン流。タンディ・ニュートンの娘ニコ・パーカー演じる少女の容姿は「ビッグ・アイズ」の画やバートンが描くイラストにそっくりだ。
リアルなゾウさんに、不安と期待が入り混じったが
ディズニーキャラとしてのダンボはアニメらしい「かわいさ」があり、本物の象と印象は異なる。この作品では、CGとはいえリアルに近い象を追求。観る前は不安もあり、実際に登場しても違和感はあるのだが、その「違和感」こそが「作り物としての映画」であると高らかに宣言しているよう。ダンボの飛行もスムーズではなく、ややぎこちなかったりして、CGなのに単に美しいファンタジー映像になっていないところが、ティム・バートン流。違和感に映画の魔法が宿った奇跡、とは言い過ぎか。独特のカラフル美術から、お姉ちゃんを演じる子役の顔まで「バートン印」は健在で、子供時代に、心ざわめく魔界に足を踏み入れた感覚が、ちょっぴり甦った。
オリジナル作品への愛情が感じられる実写化!
1時間弱のアニメをどのように実写化するのか? 仔象をどうやって飛ばすのか? 見る前から興味津々だったが、予想を超える愛らしい作品に仕上がっている。CGIで描いたダンボの可愛い仕草や青い瞳、細部までこだわった華麗な映像美はT・バートン監督なら当然とはいえ、それだけでウキウキさせてくれる。しかも動物愛護やアウトサイダーの悲しみ、親子愛、アンチ拝金主義といったテーマが盛り込まれていて、オリジナル作品をリスペクトしながらもさらなる深みを加えている。夢の国へのディスを許したディズニーの懐の深さに感心したが、バートン監督に是非『バンビ』実写化をお願いしたいところ! 子役ニコ・パーカーの将来が楽しみ。