グリーンブック (2018):映画短評
グリーンブック (2018)ライター6人の平均評価: 4.5
笑いと人情、芸術と人間性のサジ加減が絶妙
イタリア系白人と黒人、運転手と雇い主。『ドゥ・ザ・ライト・シング』と『ドライビングMissデイジー』、30年前のオスカーを賑わせた2作の融合と言うべきか。
兄ファレリーの単独演出は『メリーに首ったけ』等のコメディに比べると過激ではないが、それでも社会的弱者に向けられた愛ある目線は健在。差別に関するメッセージを押し付けることなく、ユーモアの中にじんわり染み込ませるサジ加減は絶妙で、オスカー受賞も納得。
音楽の使い方も素晴らしく、クラシック奏者の黒人と、R&Bを知る白人という真逆設定を活かしつつ、それぞれの味を際立たせる。たがいの嗜好に心を震わせ、理解し合う、そんな人間性が妙味。
深刻なテーマをユーモアで色付けしたほのぼのドラマ
黒人差別が当然の時代にインテリ黒人と粗野なイタリア系運転手コンビが南部を旅する物語で、設定としては非常にシリアス。しかし、P・ファレリー監督らしい温かいユーモアで色付けし、唖然としてしまう人種差別に直面した二人の対応すらも笑いに昇華させる演出が小気味いい。価値観やバックグラウンドが異なる主人公二人がそれぞれを理解して友情を培う姿は、分断が深刻化するアメリカ、いや世界が見習わなくてはならないもの。見終わった後にほのぼのとした気持ちになること請け合い。ヴィゴもマハーシャラも演技派にふさわしい名演を披露している。とはいえ、正直言うと作品賞でのオスカー受賞にはびっくり。
差別問題と向き合いつつ決して重くならない珠玉の名作
グリーンブックとは人種差別が根強い時代に、黒人が宿泊可能な施設を紹介した旅行ガイド冊子のこと。実話ベースの本作は、世界的な天才黒人ピアニストに雇われたイタリア系運転手トニーが、グリーンブックを片手に演奏ツアーへと旅立つ。かたや黒人のエリート、かたや白人のブルーカラー。しかし実はどちらもアメリカ社会では被差別者だ。それにも関わらず、トニーは黒人に対して潜在的な差別意識を持っている。その矛盾にこそ差別の根深さがあるわけだが、本作は決して深刻な暗い話にせず、本音で向き合う両者の歩み寄りと友情の芽生えを暖かな筆致で描く。そして、肌の色や環境の違いを超えて人間が理解しあうことの素晴らしさを讃えるのだ。
おっさん版『ドライビング Miss デイジー』
そりゃ、ツマラないわけがない。“ロードムービー版『最強のふたり』”であって、時代的にも若干カブる“おっさんだけの『ドライビング Miss デイジー』”なのだから! これまでミステリアスかつ繊細なキャラのイメージが強かったヴィゴ・モーテンセンが増量し、“リップ(口が達者)”なタフガイを楽しそうに演じているだけニヤニヤもの。『大災難P.T.A.』好きにはたまらない展開も用意されている。これまで手掛けてきたおバカコメディでも、笑いを武器に偏見や差別に対して、戦ってきたファレリー(兄)監督だけに、まさに本領発揮といえるが、当然ながら、いつもの“毒”は抑えめ。だからこそのオスカー受賞だといえる。
車体の色に似た、明るく爽やかな余韻が残る
大きな車で、広い大地の中の一本道を快適な速度でドライブして行く。作品を貫くその心地よさを、車の色、明るいペパーミントがかったグリーンが象徴している。テーマはシリアスなのに、ずっと色調は明るく、笑いがたっぷりあって、見ていて気持ちがいい。
そして、セリフには不要な説明がない。主要人物2人の少しずつ変化していく気持ちは、言葉ではなく行動で描かれる。
監督はキャメロン・ディアスの「メリーの首ったけ」のファレリー兄弟の兄の方、ピター・ファレリー。あの作品も、やりすぎ系ギャグの底にあるのはキュートなラブコメだった。モチーフはまるで別だが、どこか胸が暖かくなる気持ちのいい感じが似てる。
何度も思い返しては、幸せな気分に浸ってしまう
価値観も思惑も、人生の目標も真逆の2人のロードムービーは、『レインマン』など「定番」な作りだが、両者に深まる絆にここまで感情移入させる映画を観たことはない。
社会的に「差別する」側だが性格は野卑で自己中心的なイタリア系と、「差別される」側だがインテリで育ちがいいアフリカ系というコントラストをうまく使った、行く先々でのエピソード。その積み重なりの、心地よさよ!
監督らしい笑えるネタ、ミュージシャンの物語ということで音楽の絶大な効果、主演2人の奇跡レベルの掛け合い、そして時代を超える多様性のテーマ…。これらの美しき化学反応で、観た後、何度も思い返し、この映画に出会えた幸せを噛みしめている。